『起業の天才』を読了
大西康之著『起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』を読み終えた。3月2日のツイッターにこう書いていた。
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昔からいかがわしい人が大好物で王長徳氏や許永中氏の評伝を読んだ。政治家では野中広務氏、最近では小池百合子氏のノンフィクションも“物語として”は大好きだ。ホンカツ信者だけど江副浩正氏も読まずにいられない。
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ちょうど一か月かかった。なかなか読書の時間が取れないので、朝のトイレで少しずつ読み進むのが最近の日常だ(笑)。それも数冊かわるがわるだからそれなりに時間がかかる。しかし、その中の一冊が脳内でグルーブしてくると、その一冊を集中して選び出す。『起業の天才!』はそんな一冊だった。
いかがわしさの中に強烈に光る個性というか人間力を感じさせる人を描いた書物がときどき読みたくなる。そう思っているとそんな書物のほうから目に飛び込んでくるのかもしれない。今回は定期購読している月刊誌『FACTA』の書評で知った。
オビにある「おまえら、もっといかがわしくなれ!」は、江副浩正氏からリクルート株を“預かった”、ダイエーのカリスマ中内功氏のことばだった。佐野眞一著『完本カリスマ』は2010年に読んだが、二人とも実に魅力的ないかがわしさだ。
企業風土が正反対に見える当時のリクルートとダイエーだが、トップどうしが惹かれ合った理想の企業、つまり「社員皆経営者主義」の突破力を実現したのが江副の作ったリクルートだった。
新入社員といえどもアイデアを出した人間に事業を任せる度量は、東大卒業後にサラリーマン生活なく経営者となり、ピーター・ドラッガーの書物だけを純粋に遂行しようとした江副ならではの痛快さだ。
私も某社に入社5年目くらい(90年代後半)だっただろうか、かつてIT系の事業アイデアで社長賞をもらったことがあったが、そのアイデアは担当部門が引き継いだ(らしい)。オレにやらせろと思ったがそういうシステムはなかった。思った通り、他部門の若造が出して来たアイデアなぞ、当時の一般的日本企業では即刻ボツになる。アイデアクラッシャーがうようよしていたのだ。まさに部門の沽券にかかわるのだろう(笑)。江副浩正の先進性は驚異的だと実感する。
そんなダイバーシティの欠片もない当時の日本社会が、江副のリクルートの快進撃を面白く思わないのは当然だ。しかしこの書物を読んでちょっと驚いたのは、日本の財界やトップ企業にも先見の明を持つ人間が江副の周りにぽつぽつといた事実だった。そんな彼らも獄の人となったが。歴史の if は語れないが、歴史とはその選択によって全く変わってしまうダイナミックなものだと気づく。
結局、日本は(いや当時のメディアが)リクルート疑獄というグレーゾーンにヒートアップし、検察も追随し、その結果として日本はグローバルなIT社会をけん引する国家から脱落し、長期停滞社会に突入していった。いまだ抜け出せない(おそらくもう抜け出せない)闇のなかにある。いま政治に興味を失っている日本人たちがしっぺ返しを受けるのはさらに20年30年後なのだろう。
日本企業にはいまだに『ティール組織』は少ないと思う。ベンチャー企業にはあるかもしれないが、ベンチャー企業が育って行く環境は実に厳しい。50年も前にさらに厳しい環境のなかでリクルートを創業した江副浩正という経営者の成功と挫折の物語は、いくつもの示唆を与えてくれる。
●これまで読んだいかがわしき人々
昔からいかがわしい人が大好物だと最初に書いたが、『闇市の帝王』と呼ばれた王長徳氏についての評伝(七尾和晃著)は2007年に読んだ。許永中氏の自伝は2019年10月7日にツイートしてた。その後すぐに読了した。
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何か面白い本がないかと書店に寄ったら許永中著『海峡に立つ:泥と血の我が半生』があったので買って帰った。本物の極道の書いた本だけにワクワクする。同じワルでも安倍一味はなぜかつまらない。現在進行形だからかな? www.amazon.co.jp/dp/4093886253/…
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野中広務氏については魚住昭著『野中広務 差別と権力』が読み甲斐あり。毀誉褒貶の激しい政治家だったが、麻生太郎のような人間を許さない信念には一目置く。昨年読んだ石井妙子著『女帝 小池百合子』もすごい。人間性にはまったく惚れないが、その父娘の生き様には物語を感じる。
ホンカツ信者という言葉も説明が必要か。令和だし(笑)。ホンカツとは元朝日新聞の記者でありルポルタージュの名手本多勝一氏のこと。『日本語の作文技術』はいまも読み継がれる名著だ。私は本多勝一氏の著書を八割方読んでいる愛読者だが、南京大虐殺ほかのルポを読んだ自称右翼の人々には本多勝一を許せない人々が多く、彼らは本多勝一ファンのことも“ホンカツ信者”と名付け蔑むことを生業としているのだ。
その本多氏を含む朝日新聞の記者がリクルートから接待を受けて安比高原にスキーツアーをしていたという記事をめぐって、当時本多勝一氏が連載もしていた『噂の真相』という月刊誌(もちろんこれも愛読誌だった)と本多氏とが仲たがいし、最終的に決裂してしまったというゴシップが当時あったのだ。リクルート疑獄の本筋とは異なる周辺エピソードの類いではあるが、ホンカツ信者としてはリクルートや安比高原スキー場と聞くと、その当時の噂の真相をついつい連想してしまうのである。
結局、私のいかがわしさ好きのルーツはウワシン(噂の真相)にあるのかもしれない(いやそうに違いない)。そんな私の本棚にはウワシンコーナーがいまもひっそりと佇んでいる(笑)。
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