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2016.10.08

『若冲になったアメリカ人』を読んだボク日本人

10月1~3日に箱根を再訪した。ポーラ美術館の企画展「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ」のハガキが届いていたのと、岡田美術館で若冲と蕪村の特別展があったから。伊藤若冲にどはまりしている友人に声をかけるとぜひということで。

若冲は今年生誕300年でNHKほかでも特集され俄かに注目されている。岡田美術館では若冲と同年齢の与謝蕪村を中心に、同時代の江戸美術を堪能した。

日本画は学校美術でもあまり採り上げることがなく、歴史的な流れとか、世界史のなかでの位置づけがすっぽりと抜け落ちてる感じがする。

そんな日本美術は皮肉なことに海外で評価を得て生き延びてきたともいえる。ただし明治時代の浮世絵や版画のように二束三文で流出したり、投資商品となったりしたものも数知れない。

そんななかで伊藤若冲コレクターとして知られる、ジョー・D・プライスさんは大変な日本美術通であり、かつ作品本位にコレクションして来た稀有なコレクターで、こういう人のもとで守られて来た日本美術の作品群は幸せだったと思う。

生誕300年に向けて伊藤若冲について書かれた書目や図録も大量に出版されたが、個人的に購読したのは、東京都美術館と日経新聞社による若冲展の図録『若冲』と、プライスさんへのインタビュー『若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語』(小学館)の2点だけだった。愛好家とかキュレーターなどの裏話が好きなもので。

●コレクター魂のお手本!プライス・コレクション

プライス・コレクションがもしなかったら、若冲がこれほど注目されたかどうかわからない。この人は作家の名声などとは無関係に自分の目で作品を見て、たまたま持ちえた財力で購入して来た人だった。日本人学者くらいしか知らないような作品を次々と購入していくわけだが、人気のない日本美術だからかなり安く買えていたようだ。

しかし安く買って高く売るといった投資目的ではなく、コレクター魂そのものに突き動かされて買い付け、その作品がもっとも美しく見える見せ方を工夫し、学者や愛好家を自宅に招待して好きなだけ研究してもらうというオープンな考えの人だった。

特に日本画は電気のない時代、自然光で見えることを想定されて作られたはずという信念で自然光にこだわったり、屏風の凹凸への意識、画材(素地)と着色や線の交わりへの洞察などなど、さすがコレクターと思わせる解説をしてくれる。また、研究者でもないため、ときには大胆な推察で絵画を楽しむ方法を教えてくれる。

若冲はルーペで細部を見ても揺らがない精密な描写がひとつの魅力で、岡田美術館でもルーペの貸出をしてくれた。友人はルーペ持参だった(happy01)。そういう確かな技術に裏打ちされていることは重要だか、遊び心のある画もたくさん残している。

●日本画の独自性をもっと学びたい

そもそも鳥獣、虫、草花などを主なテーマにする日本画には根底にやさしさと観察力があり、同時に豊かな自然への畏怖の念もあり、それらが時空を超えて表現されるわけで、このオリジナリティを西洋人が見たら唖然としたことだろう。

特に屏風画などに見られる想像力は、ジャポニズムと出会うまでの西洋絵画にはまず見られない独創性だと思う。春夏秋冬天地人花鳥風月、あらゆる対象が時間も空間も飛び越えて共存し、西洋人には余白と見えるであろう空間によってつながれ、遠近感など無視して隣り合う世界。

モチーフには大陸からの影響もあっただろうが、それでもやはりガラパゴス的な極東の島で独自に発展した“極み”の技は唯一無二のものだろう。それが西洋列強の圧力で開国したとたん、西洋こそが正解といった風潮に支配された日本の美術教育。嘆かずにはいられない。

ただ西洋絵画のなかでも印象派が日本人に大人気なのを見ると、西洋絵画の亜流として始まった印象派のなかに日本人的な感覚がうずく何かを日本人は見ているのかもしれない。そのあたり、日本画家の平松礼二さんの新書『モネとジャポニズム』(PHP新書)が面白い考察を展開していらっしゃる。研究者ではなく画家だからこそ気づける部分はとても面白い。美術教育への一家言もお持ちだ。

いま日本社会は右傾化などといってナショナリズムの台頭が危惧されているが、あんなものはまったくナショナリズムでもなんでもない。たんなるマッチョ思想であろう。日本独自の自然観や哲学とは相いれない、ある種西洋かぶれした明治以降の勘違いナショナリズムだ。そんなものは横に置いて、本物の日本文化と真正面から向き合う機会を増やすことが教育にも必要だろうし、日本人として世界と向き合う精神的指針となりうる。

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