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2016.04.29

『フェルメールになれなかった男』 嫌いじゃない!むしろ好き!

ショーンKの学歴詐称問題のニュースがあったタイミングでこの書籍のことを書こうと思ったのだが、ずいぶん時間が経ってしまった。ちなみに学歴詐称問題については2004年に「ポスト古賀?」というヒット記事を飛ばしたひとくちメモ。様々なところからリンクされたけれど、結局タモリの学歴問題は12年経ったいまもうやむやなままである。それがタモリの偉大なところでもあると思う今日この頃。ショーンKにも見習ってもらいたい。

さて、本題。フェルメールになれなかった男とは、世紀の贋作師ハン・ファン・メーヘレンというオランダの男だ。フェルメール他の贋作をいくつも描き世間を欺いた男だが、欺いた相手の中にナチスのゲーリング元帥がいたことでナチスに贋作を売りつけたオランダの英雄のように持ち上げられた男でもある。そして贋作したという自白を信じない人々のために裁判で贋作制作を実演してみせた男、ファン・メーヘレン。

こういう書物も評伝といっていいのだろうか。ノンフィクションというのだろうか。構成もよくミステリーのように読み進められる。そしていまもフェルメールの贋作論争は続いており、芸術とは何かを我々に問いかけ続けている。

私は贋作師が嫌いじゃない。世の中をペテンにかけて批評家が適当な言説を述べるのをひとり嗤い軽蔑する人間。自分で贋作であると名乗り出なければその作品は他人の名声とともに永遠に生き残る。その倒錯した喜びとむなしさの狭間で生きる、その生もひとつの芸術の在り方かもしれないと思う。

絵画に付されたサインや売買記録、展示記録のような枝葉末節が最も重視される美術界の在り方もある意味ペテンのようなものだ。作品の本質というものは実は重要ではなく、商品価値を決めるのは流通経路といっているようなものだ。

真作か贋作かが重要なのは流通する価値、経済的価値でしかない。この絵は誰の絵かを当てるクイズを楽しんでるようなものだ。そこにジョーカーを紛れ込ませるのが腕のいい贋作師だ。ただ答えを教えないまま永遠に続くクイズがいまも世界中に地雷のように潜んでいる。その現象こそまさにアートじゃないかとすら思ったりする。

メーヘレンはもともとは素晴らしい絵画を描く技術を持ち、絵の具の研究に余念がなく、ボタンの掛け違いがなければ画家として成功していたかもしれなかった。だが世間が自分の存在を認めないと分かったとき、17世紀の絵の具について研究し、キャンバスを自作の窯で焼いて古さを演出し、美術評論家の弱点を見抜き、そこをくすぐるような作品を描いた。贋作ではあっても渾身の作品が出来上がってしまった。そこにフェルメールと署名してしまったことだけが罪だった。

贋作が贋作と呼ばれるのもそこに経済的価値が付随するからだ。メーヘレンは大金持ちになった。そして堕落する。女に酒にと生活も荒れていく。そして終戦後逮捕されたメーヘレンは親ナチスの大金持ちとして糾弾されるよりも、贋作師であると自白することで自分の技術を世間に認めさせることを選んだ。このときのカタルシスはどれほどだっただろう。贋作師としてこれ以上の舞台はないように思う。

学歴詐称と決定的に違うのは、そこに作品というリアルな実体を伴うところだ。偶然や人脈や様々な要素によって芸術が、芸術家が、世の中に認められるかどうかは紙一重であり、そうやって出てきた作品はもちろん素晴らしいけれども、出てこなかった芸術や芸術家の思いを物語る贋作というジョーカーにも切ない感情を喚起されることがある。何らかの感情の起伏を伴う作品、それもまた芸術と言ってもいいんじゃないか。

オーソン・ウェルズはかつて「フェイク」という映画を作った。贋作師をドキュメンタリータッチで追い、しかしその映画もどこまでが本当はわからないような映画だった記憶がある。当時はあまりちゃんと見てなくてもう一度見たい映画のひとつだ。贋作であるという、まさにそこに惹き込まれる人々もいる。ボクもどうやらその一人だ。贋作はバレなきゃ贋作になり得ない。贋作が贋作として認められると作品としての経済的価値を失う。だがメーヘレン作品のいくつかはいまも美術館で見ることができそうだ。贋作であることに価値がある珍しい作品として。

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