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2016.02.11

『親なるもの断崖』を『断崖~親愛なる者へ~』を聴きながら読了

週刊金曜日の1月15日号の書評は珍しく漫画を紹介していた。曽根富美子『親なるもの断崖』の新装版だ。宝島社の「このマンガがすごい!2016」の第9位で、電子書籍版もヒットして新装版が発売された。

このタイトルを見て中島みゆきファンならきっと「断崖~親愛なる者へ」を連想すると思う。もうタイトルだけで半分は惹き込まれてしまった。

更に舞台は北海道だ。明治末期から昭和初期の室蘭。日露戦争の頃から東洋一の兵器工場と言われ重工業で栄えた男の飯場。そこには当たり前のように遊郭があり、女衒に連れられて売られてくる少女たちがいた。

室蘭にある地球岬という断崖。地球岬をポロ・チケウといい、アイヌ語でポロ=親である・チケウ=断崖という意味らしい。ポロは大きいといった意味だが、そこにある大小の断崖の大きいほうを親、小さいほうを子に見立てて女衒が連れてきた娘にこう話す。ここから室蘭がお前の親だ。死にたくなったらこの断崖に来いと。

このとき連れられてきた娘は4人。松恵、お梅、武子、道子。この物語は彼女たちそれぞれの一代記といえる。世間の厳しさを凝縮したような幕西遊郭の只中にほうり込まれた壮絶な人生の物語。

長く生きながらえる者も短い生涯を終える者もいる。厳然と存在する世間の不条理やむき出しの本能。獣のように、いや獣以上に非情な人間社会。その営みと併存してもの言わぬ断崖がある。人々はその断崖を畏怖しつつ人生の岐路でその断崖の前に立つ。

読んでいる最中、中島みゆきの「断崖~親愛なる者へ」が何度も頭の中でBGMに流れてしまった。以前、この曲についてこんなことを書いていた。

断崖って聞くと断崖絶壁から身を投げるようなイメージが浮かぶ。でもこの断崖は決意表明を叫びに吹雪のなか出かけた場所なんだ。海に向かって、春の服を着て走り続ける決意をひとり叫んだんだ。叫ばなきゃいられなかったんだ。きっと。

断崖の前でその断崖の深い部分まで共鳴しようとする心は北海道人特有のものだろうか。北海道の断崖を観光でしか体験していない私には、その深層心理にまで共鳴することが正直難しい。中島みゆきの断崖も、曽根富美子の描く娘たちの断崖も、あらゆる感情を飲み込みあるいは抱きしめ、日常と非日常の境界に存在するかのようだ。

『親なるもの断崖』新装版は第1部と第2部の全2巻。第2部は、第1部で遊郭に売られて来た4人娘のなかのひとりが女郎として生き、壮絶な人生の果てに産み落とした道生という名の女の子の物語だ。そして昭和33年、売春防止法が完全施行されて幕西遊郭が消えるまでの物語でもある。

道生の目ぢからに圧倒される。第1部とは違う戦争の時代。強く生きようとする道生の愛おしさ。断崖と同じく、男の私にはどこまで登場する女性たちの心情に迫れたか分からないけれども、動乱の時代に息づいた女の系譜を中島みゆきのBGMとともに読み終えた充実感が残った。時代背景もうちの祖母、曾祖母の時代と重なる。7年前(2009年)の今日は祖母が亡くなった日。女系の家庭で育った私にはそういう部分での不思議な親近感もあった。

余談だが、これを読み終えたころには、似た境遇の映画『大地の子守歌』がブルーレイ化される予定だった。しかし発売直前にまさかの発売延期。素九鬼子原作、増村保造監督、そして原田美枝子主演。なんとかもう一度見たい映画だ。限定版でもいいから発売してほしい。オンデマンドでもいい。よろしくお願いします。

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