映画「サムライフ」のいいとこわるいとこ
NHKドラマ「限界集落株式会社」の最終回が終わり、テレビでは「問題のあるレストラン」と「オサレもん」を見ている。それらをつなぐキーワードは女優松岡茉優だ()。
先日その流れで松岡茉優のブログを見ると映画「サムライフ」の森谷雄監督が「限界集落株式会社」のプロデューサだと書かれていた。「サムライフ」が第一回監督作品だとか。ちょうど水曜日で新宿武蔵野館は1000円デーだったので、これだけ条件がそろった日には見に行かなきゃ罰が当たると思い(笑)、新宿で見てきた。この映画が今年最初の映画館訪問となった。
この映画の最大の強みはこれが実話だというところだと思う。実在するNPOが作った学校があり、その学校を作った元教師ナガオカと若者たちの映画だ。その創立メンバーの若者のひとりを松岡茉優が演じた。「限界集落株式会社」で観た素朴な感じがここでも活きていたのは、監督が松岡茉優の魅力をよくわかってるということなのかもしれない。
学校を作るというテーマにも惹かれた。20世紀の終わり頃にボクはサドベリーバレースクールの存在を知って、日本にもこんなデモクラティックスクールがあったらいいなぁと思い、湘南に新しい公立学校を作り出す会の皆さんと交流していた。そのプロジェクトは昨年ひっそりと幕を降ろした。ボク自身は単なる外野でしかなかったが、日本各地で学校を作るという取組がなされ成功例も失敗例もたくさんあったと思う。
映画「サムライフ」は長野県の侍学園という学校を作った若者を描いている。主人公ナガオカはとにかくアグレッシブで、自分の理想の学校を作るために教員を辞め、資金作りのためバーを開店し自伝を自費出版する。そこに昔の教え子がやってきてその夢に賛同し、紆余曲折の後についに学校設立を成し遂げるのだ。
これがフィクションならまったく違って見えたと思うが、実話をもとにしているところが強い。原作となったナガオカの著書はちょっと読んでみたいと思った。映画では見えなかった部分も知りたいと思ったし、2004年に開校して10年間続いているというのが驚異的だ。いわゆる普通の学校とは違うのだろうし、サドベリーバレーとも違うようにも思う。長岡秀貴氏はいまや教育委員でもあるようなので行政や地域とも連携して運営できているのだろう。
映画としては正直それほど面白いとも思わなかった。素材はとても映画向きだと思うが、学校設立に邁進する主人公たちの話はいわば起業家のサクセスストーリーであり映画のテーマもそこにあるようだった。だがそこで描かれた様々なサイドストーリーがどうにも響いてこなかった。
預金通帳には725円しかないところからの起業といいつつ、無職になってから結婚し立派な家を建てオープンカーも買っての残金725円。これを背水の陣と言ってしまう感覚からちょっと違和感を感じた。それでいてバーを開く資金とか自費出版の資金とかそういう部分での金銭的な苦労は特に描かれない。預金はないわけだから両親から借りたのか仲間からの支援なのか、そこら辺をスルーして著書の印刷代を一か月待ってもらうシーンだけで苦労話とするのも違和感だった。
その後、不登校の家庭にカウンセラーとして赴くのだが、そこでのリストカッターの少女との交流も描き方が浅く最終的には(映画のなかで見る限りは)救うことも出来ず、単なるサクセスストーリーの裏話的エピソードのひとつとして処理される。それってどうなんだろう。あの少女はどうなってしまうんだろう。そんな思いとともに開校式のシーンを見た。
「いろんな失敗も繰り返しながらここまで来た」といった感無量系のエピソードは成功譚に必須だったにせよ、選ばれたエピソードで描かれる少女の闇の深さと映画での扱いの軽さとのバランスを欠いており、このエピソードをそれで終わらせて主人公のサクセスストーリーの過程における失敗談のひとつにしてしまう白々しさを感じた。
つまりこの映画は学校創設を描いているが教育の闇とか社会問題に深入りすることはなく、若者たちの成功譚としてだけが語られた印象だったのだ。それならそれでもっと描き方はほかにあったような気もするが、そこは原作に忠実だったのかもしれない。
そう考えるとこれが学校創設じゃなくても成立する。起業家の話は五万とある。教育問題が絡まないだけ他の業界の話のほうがこの成功譚の素材としては良かったかもしれないとも思った。いやフィクションのほうが映画としては面白く出来たかもしれない。そういう意味で感動はなかったが、しかし「実話である」という一点において意義はあると思った。情報としてこんな学校が存在することを知りたい人はいるだろう。
| 固定リンク | 0
コメント