手放せない書籍たち ~一本釣り編~ 5選
驚愕すべきことに、昨年12月中旬にケトルという雑誌を購入した日以来、書店に行っていなかった。一か月以上書店に足を運んでないなんてことはオレの人生において、少なくとも社会人になってからは皆無だったのではないか。それも年末年始を挟んでのことだ。神社には行かずとも書店には行っていたのに。
こんな事態に陥ったのはもちろん年末から続く大片づけのせいだ(笑)。手持ちの書籍を減らそうとしている一方で買ってくるのは行動に矛盾がある。そういう意識が書店からオレを遠ざけていたに違いない。
もっともその甲斐あって手持ちの書籍や雑誌のありがたみが逆にわかり、一冊をちゃんと読む姿勢にもつながった。定期購読雑誌もいつもより多めに読んでた。かつて検査入院したとき、手持ちの雑誌を全頁制覇したあの時に似ている。
だが、そろそろ限界に近づいていたのだろう。古書の処分はまだとはいえ()、それなりに片付いて気持ちに余裕も出て来ていた。たまたま郵便局本局に行く用事が出来、その近所のちょっと大きめの書店に自然と足が向いた。
書店に入った瞬間、忘れていた感覚が甦って来た。本の背表紙をただ漠然と眺めるあの感覚。平台と棚ざしの書籍を眺めつつ書店員の棚への意識を推し量る(妄想する)愉しみ。背表紙やオビを読むだけで随分と“現代”に触れてる気分になれる。
出版大国日本において書店に並ぶ本というのはすでに選ばれた精鋭たちである。限られたスペース、限られた時間、限られた配本、そういう制約の中を生き抜いていまそこに鎮座しているのである。まずはそこに存在することに敬意を表さなければならない。もっともパターン配本だけで並んでるだけの棚は無視してしまう。そこは素人さんの居場所だ(何様?)
限られた書店空間に書物というかたちで表出した体系化されていない知の断片を、自分なりの羅針盤と探知機を持って探索する。いま自分はどんな知に惹かれるのかを探るインナートリップでもある。もともと興味のある分野もあるが、この徘徊によって偶然に出会う書物には書店でしか見つけられないオーラがある。
そうやって見つけた書物には、よくぞその棚に刺さっていてくれたと心の中で最敬礼をし、書店員のセンスに感謝するのだ。ネット書店の便利さの陰で失われていくこの感覚。読書行動学とでも名付けようか。書店徘徊からすでに読書は始まっているのだ。歩き回る、手に取る、そういう身体活動を伴った読書は廃れていくのだろうが、それはオレの死んだ後にしてほしいものだ。
●書店で一本釣りした書籍5選
というわけでいつものように長い前置きの後は片づけの話に戻るわけだが。今回の前置きは前振りにもなってる。過去に書店で一本釣りした書物からとっておきの5冊を選定してみた。5冊に限定できたのも片づけのおかげだ。書店員ではないが自分で棚を作る感覚で選んでみた(もっともこの5冊を並べる感覚は書店にはないと思うけど)。
片付け中に分類しながら自分の趣味系でもない、シリーズや好きな作家モノでもない、書店で偶然見つけて買った単行本を一か所にまとめた。それが一本釣り系だ。
文庫や新書なら安さもあって手軽に一本釣りするが、単行本は多少敷居が高い。ジャンルもなかなか固定しずらく専門書のなかで一般読み物的に作られた書物が多い。だが得てしてお宝はそういう棚に眠っているものだ。
ときには全く門外漢だからこそ買ってみたり、タイトルや装丁に惹かれたり、活字のレイアウトに惚れたり、理由はいろいろだが、買ったそのときその瞬間にビビビっと来たのは間違いない。一冊だけ買って帰ることは稀だから、きっとその他目的の書を買った足でついで買いしたものもあるだろうが、そういう書物で面白かったら得した気分になれる。そういう書籍たちが一本釣りの本。特大マグロを釣り上げたいという意識は常に持っている(笑)。
この写真のなかで赤枠で囲ったのが一本釣り5編(クリックで拡大)。
・四色問題 (新潮文庫になってた…)
・雲の「発明」―気象学を創ったアマチュア科学者
・オオカミと生きる
・氷河期の「発見」―地球の歴史を解明した詩人・教師・政治家
・コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった
このなかで一番を挙げるなら『オオカミと生きる』かもしれない。オオカミと共同生活をした記録なのだがとにかく面白かった。これ以外の4冊は実はまだ全部読んでない()。だから手放せないという面もある。だけどそういう本でも手放す気になった本もたくさんあったなかで、これらは残したくなる何かを持っていたんだろう。
自然科学系が多いような気はする。四色問題は数学の話だが、これは(本棚の下の段にあるような)他の数学系ノンフィクションと趣味的関連性はあるかもしれない。雲は個人的に好きなジャンルで、雲を発見したアマチュア科学者というだけで尊敬する(笑)。氷河期の発見とあわせて発明発見モノというジャンルに分類できるかもしれない。コンテナ物語も発見モノといえそうだ。「箱」を作ったら世の中の物流が大転換・大進歩したという話。
これ以外も含めてフィクションよりノンフィクションのほうが圧倒的に多い。オレの指向性なんだろう。この5選は面白さで選んだわけでなく、一本釣りの記憶で選んだ。そういう瞬間・体験を記憶するためのオブジェ的価値を見出したい。オリンピックのメダルというと言い過ぎだろうが、気分としてはそんなオブジェたちだ。
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