「ごめんね青春!」 個人的にはドラマ「さけべ満島!」
TBS日曜ドラマの「ごめんね青春」が日曜ドラマ枠の平均視聴率ワースト1(7.6%)になったとか。ドラマの面白さと視聴率は必ずしもリンクしないけれど、今回はちょっと「ふーん、なるほど」と思ったりしたので、そこのとこを書いておきたいと思った。「ふーん、なるほど」と同時にこのドラマのタイトルは「さけべ満島!」がいいなと思っていたもので。
宮藤官九郎の代表作といえば、いまやNHK「あまちゃん」なのだろうか。社会現象ともいえるフィーバーぶりだった。いまや「あまちゃん」を総集編でしか見ていないボクは宮藤官九郎ファンとは言えないのかもしれない。
そんなボクがドラマで好きなのは「ガンジス河でバタフライ」という前後編の単発ドラマ。インドという“異空間”で長澤まさみがハイテンションで右往左往する、宮藤官九郎でなけりゃ書けないドラマだった(原作はたかのてるこ)。ただしこれも視聴率は取れなかった。
バランスの取れたところでは「流星の絆」がある。原作の世界がかっちり構築されている制約のなかで宮藤官九郎が小ネタを織り込みながら、ちゃんどテレビドラマとして成立させた。パロディが得意な宮藤官九郎だから、原作をひねっていく作業は上手いのかもしれない。
宮藤官九郎の魅力はいろいろあると思うけど、リアリティのない設定を持ち込んで小ネタを挟みながら成立させていく面白さなんだと思う。そういうところは演劇の人なんだなと思ったりする。偏見かもしれないけど。
しかしタガが外れ過ぎると空回りする部分も増える。「ごめんね青春!」はオリジナル脚本だったから宮藤官九郎ワールド全開で出来たはず。原作があれば笑いと物語とがいい塩梅で共鳴しあうが、宮藤官九郎が次々と繰り出すぶっ飛んだ設定の応酬になってしまうと結構きつい。
面白くないわけではない。いや、どっちかというと面白かった。しかしドラマとして我に返って見ると、どうも落ち着かない気持ちになる。それでいいという考え方もあると思う。クドカンなんだからハイテンションで突っ走ってればサイコー!みたいな。
だけど「ごめんね青春!」には、ちょっと泣かせようとする“マジ”なシーンが結構出てくる。出てくることに異存はないのだが、その他の設定とその泣きの物語との落差が大きくて、入っていけない気分になることが何度かあった。一度そういう気分になると、どんどん気になっていく。それでしんどくなる。
持ち味の軽薄さの余韻をシリアスな場面にまで引きずってしまったという感覚。カソリック系女子高と仏教系男子校の合併騒動というバカバカしい設定と青春の汚点としての放火事件(事故)への葛藤とが、同じ地平に出てくると混乱する。
放火の告白に向かっていく主人公教師だけの葛藤のベクトルと、バカバカしい学園ドラマとしての軽薄なベクトルとは平行線をたどったと思う。また放火の罪(無実の罪)を背負って消息不明となった女子高生の物語も、この軽薄なドラマのなかでは居心地が悪い。
それをなんとかすり合わせようとするところが腕の見せどころだったのかもしれないが、軽薄さのほうが突出している(と信じている)視聴者側の意識がいきなりのシリアスドラマ仕立てについていけなくなったかもしれない。70年代風にいえば「シラー…」って感じだ。シラケ鳥飛んでいく南の空へ…。そんな気分にちょっとなってしまった。
また、ご当地グッズやご当地食材に“あまちゃんの二匹目のドジョウ”感があった。そういう視聴者は結構いなかっただろうか。NHKと民放との違いもあるかもしれない。建前上コマーシャリズムがない放送局でやるご当地グッズと、基本がコマーシャリズムにまみれた民放キー局でやるのとでは受け取り方が違う。それも結局「やっぱりコンビニタイアップやってんのかよ」という…。ここでも「シラー…」という空気が流れた。
宮藤官九郎は才能にあふれてる。シリアスも出来れば笑いも出来る。でもそれを両方ごった煮にしてしまうと収拾がつかなくなり落ち着きが悪い。おそらく視聴者側は小ネタを含む笑いの波状攻撃のクドカンイメージに引きずられてシリアスが霞む。笑いの質がドライだから余計に。
シリアスな部分が主軸となるドラマの構造とうまくかみ合う笑いはもちろんあると思うけれど、宮藤官九郎という名前が大きすぎて逆に「これはシリアスドラマですよ」という説明的な演出が必要になってくるかもしれない。「ごめんね青春!」はどちらにも振れることなく中途半端な感じが残った。迷いがあったのか?視聴率低迷に対して「ふーん、なるほど」と思った背景はそんなところだ。
●満島ひかりのハイテンションドラマとして
そういうシリアスな部分とほぼ無関係に存在し輝いていたのが満島ひかりだ。満島ひかりについては夏に「愛のむきだし 全部むきだし」のなかで触れたが、女優としてどう感じているか書いたことがなかったので、ここでちょっとだけ書いてみたい。
ボクは満島ひかりのドラマはちょっと辛くて見てこなかった。見たのは「若者たち」くらいかな。女優として魅力があるのは確かで、以前ユッコ(竹内結子)を好き過ぎてユッコ絶ちしていた頭のおかしなボクなので、そういう面がないとも言えない。
どんな役を演じる満島ひかりが好きなのか確信を持てず、これまでのドラマのなかの満島ひかりはどうも煮え切らない感じがしていて、それは満島ひかりのせいというより演出や役柄とのアンマッチングが主な原因だろうと思っていた。不幸だけど堅気に生きていく女的な、なんだかそういうイメージのドラマが目について、そういうのは木村多江にお任せしたいと思っていた。
しかし映画「愛のむきだし」で「これだ!」と思った次第。満島ひかりには絶叫がよく似合う。そういう意味では「ごめんね青春!」の満島ひかりはまさにはまり役だった。宮藤官九郎の持つハイテンションの体現者として満島ひかりはこれ以上ない適役だった。
だからもっとシンプルに満島ひかりが毎回絶叫するシチュエーションコントのような学園ドラマだったらもっと気楽に楽しめたような気がする。個人的に「さけべ満島!」というタイトルを授けたい所以だ。満島ひかりの絶叫だけを編集して見たいくらいだ。
昔、おちまさとさんが毎回トップクリエイターとともに作った「24人の加藤あい」というオムニバスがあった。女優加藤あいを素材に毎回異なる単発ドラマを作るシリーズ。いまなら満島ひかりでこういう企画をカネかけてやって欲しい。共通項は「さけべ満島!」で。絶対面白い。満島ひかりが叫んでいるだけで幸せだ。
満島ひかりの表情は不幸の影をチラっとでも乗せると何倍にも増幅されて不幸に見えてくる。そういう方向性での起用は安易すぎる。もっとぶっ飛んだハイテンションの満島ひかりがいい。「ごめんね青春!」はそんな満島ひかりの可能性を見せてくれた。いまはぶっ飛んでおいて、40歳過ぎたらざーます奥様を演じる満島ひかりが見たい!めざせ冨士眞奈美!
満島ひかり以外では、映画「幸福のスイッチ」以来ずっと注目している中村静香も良かった。このバカバカしいドラマのおかしな設定にうまくはまっていた。えなり君の巨乳アイドル的奥さんという宮藤官九郎の思いつきをそのまま体現したようないいポジションだった。
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コメント
うーん、宮藤慣れしてない人にはたしかにきつい部分あったかもしれないですね。
あまちゃんでの一般化に、ややトホーにくれてたアタクシは、ほっとしてますが。
個人的には、今回の注目はリサさんの衣装でしたo(^_^)o
投稿: あんじ | 2014/12/24 15:24
日曜劇場は半沢直樹や安藤ロイドで冒険して成功しただけに、ぶっ飛んだ宮藤官九郎ワールドも受け入れ可能とTBSは踏んだのか、あるいはあまちゃん的な振り切れない二匹目のどじょうを望んだのか(設定からしたらそうじゃなさそうだけど)。
推測だけど発注側のテレビ局のコンセプトがどっちつかずで揺らいでたのかもしれないですね。たぶんもっとがっちり制約を与えてその枠のなかで暴れてもらうほうが宮藤官九郎らしいテレビドラマになったかもしれないと思いました。
満島ひかりの衣装はマントみたいなのが多かったですね。あれはキリスト教とは無関係なのかな?
投稿: ポップンポール | 2014/12/24 15:40