google-site-verification=o_3FHJq5VZFg5z2av0CltyPU__BSpMstXTEV1P8dafg 物流を制する者がビジネスを制す!?『ラストワンマイル』: ひとくちメモ

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2014/11/01

物流を制する者がビジネスを制す!?『ラストワンマイル』

今日出かける予定が延期となったので、終盤に差し掛かってた楡周平著『ラストワンマイル』(新潮文庫)を昨晩深夜3時近くまでかけて一気に読み終えた。

平成18年刊行だから8年前だ。文庫になってからも5年になる。8年前といえば、ちょうど民主党の永田議員が偽メール問題で話題になっていた。ほりえもんが逮捕された。雑誌FACTAが創刊された。そして2005年から楽天がTBSの株を買い増していた、そういう時代。

まさに時事ネタも織り込みながらのビジネス小説だった。しかし企業小説のドロドロした内幕ものではなく、痛快なエンターテインメント小説だった。

時代の寵児となっているIT企業“蚤の市”による極東テレビ買収騒動。その“蚤の市”に理不尽な契約で切られた暁星運輸が、敵の敵は味方と利害の一致する極東テレビに新しいショッピングモール話を持ちかける。

ラストワンマイルとはIT業界(通信業界)用語だった。通信ケーブルを最終ユーザーのところに接続する最後の工程だ。だがこの小説ではあえてIT業界に挑戦する運送会社を「ラストワンマイル」に見立てる。物流を制する者がビジネスを制す。現在ではあたりまえのように言われることだが、そこに物語を発見した楡周平らしい作品。

運送屋は客に頭を下げて荷物の配送を請け負う。ダンピング競争に常にさらされる。そこに郵政民営化という黒船がやってくる。民業を圧迫し次々と大口顧客が奪われる。

そういうスパイラルのなかで窮地に追い込まれた暁星運輸だったが、このピンチを逆手にとってビジネスを創出していく主人公の横沢とその上司寺島。かっこよすぎるという気もするが(笑)、そこは小説、このくらいわかりやすいほうがいい。

幸福論 』で有名なフランスの哲学者アランの言葉が効果的に使われている。というよりこの小説の柱になっている。

●安定は情熱を殺し、緊張、苦悩こそが情熱を生む

「安定は情熱を殺し、緊張、苦悩こそが情熱を生む」

このアランの言葉は、蚤の市の社長武村慎一の座右の銘だ。武村が登場した場面で部下で蚤の市証券専務の長谷部に語らせている。

同時に暁星運輸の部長で物語のヒーローのひとり寺島の座右の銘でもある。それを寺島の上司真壁義忠本部長に昔話とともに語らせ、さらには記者会見に臨む暁星運輸の社長にも寺島の座右の銘として語らせる。

単なる知的な味付け程度のものとしてではなく、はっきりとした作者のメッセージがこのアランの言葉にあると強く印象付けられる。

著者は武村の心情として「同じ哲学者の言葉を座右の銘とする人間はこの世にごまんといる」とも書いているが、ここまで小説のなかで語らせる小説家はそうはいない。対決する両者の座右の銘が最後の最後に両者に伝わる仕掛けを作り出しているのだ。この武村の心情は、あえて小説でアランの言葉を印象付けようとした作者の照れ()だろうと思う。アランの言葉にはっきりと意味を持たせている小説なのだ。

物語の主人公である暁星運輸の社員も、敵として描かれるIT企業蚤の市の社長も、どちらもビジネスに対して情熱を持って行動している。敵として描かれる蚤の市は敵ではあっても悪ではないのだ。自身のビジネスへの情熱を形にするために行動する。

この小説のなかに悪がいるとすれば、既得権益を守ろうとするだけの銀行であり、どうころんでも損しないよう画策するハゲタカ海外ファンドであろう。蚤の市は金貸しに翻弄される構造的な弱さを持っていた。そこに武村は溺れて行ったともいえる。

もちろん蚤の市が暁星運輸を切ったところから武村の転落は始まったわけだが、切られた暁星運輸の横沢もどん底に突き落とされ、そこで初めて考えざるを得ない状況に陥る。受け身の集配からビジネス創出への転換を思いつく。そしてそれを補強し強い精神力と馬力で後押しする寺島。

現実社会を見まわしても新しいビジネスは危機の克服から始まることが多い。安定からアイデアは生まれないのだろう。情熱を殺されているわけだ。安定すると情熱は社内政治に向いていく。そっちにしか情熱が沸かないからなのだろう。そういうサラリーマンはもはやビジネスマンではない。社内ゴロと呼ぼう(笑)。話が逸れた。

そんな蚤の市の武村社長も最後にはラストワンマイルを制する運送業の存在価値に気付く。引き際の清さはさすがだ。損切に躊躇がない。この小説の後味の良さは暁星運輸の成功譚という部分が大きいが、負けた蚤の市にもまだ希望の灯はともっているように思う。武村社長は大きな痛手を負うが損切してハゲタカとの関係を清算し、この危機をチャンスに変えていける力量を、いや情熱をまだ持っているように思えた。

読み終えて意識が8年前から現在に戻った。この小説は紙の本で読むべきだ。ラストワンマイルに敬意を表して。しかし現実は違う。いま出版業界は電子化を推し進めている。ラストワンマイルがまた大きく変化しようとしている。アマゾンをナイルとか黄河にして小説が書けそうな時代に突入している。

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