テレ東「YOUは何しに日本へ?」も礼賛してみる
テレビ東京の看板番組になりそうな予感を感じさせる人気番組「YOUは何しに日本へ?」がますます面白さを増している。私も大好きでこの夏旅期間中は予約録画していた。帰宅後は延々録画を観ていたが飽きない!そこで今週土曜のローカル路線バスの旅第18弾が放送される前に(笑)、こっちも礼賛しておこうというわけだ。
番組MCはノリに乗ってるバナナマン。日村のビジュアルは万国共通らしく海外(の日本好き外国人)にも人気がある。番組の認知度があがりすぎて外国人にも日本各地の飲食店にも簡単に取材OKが取れる。設楽が「そろそろ番組名変えた方がいい」とまで言うほどに認知度が高いのだ。たまたま関空でインタビューしたフランス人留学生の女の子がバナナマンファンだったので、後日東京の収録スタジオに連れて行ってあげた回もあった。
予算の少ないなかニッチな分野で面白い番組を作ることにかけては全東京キー局のなかで群を抜いているテレ東(笑)。日本各地の空港で外国人を探しまわり突撃インタビューをする。その結果、直感で面白そうだとディレクターが判断したら密着取材を申し出る。取材NGも結構あるんだろうが、いまや人気番組で日本に来る外国人がこの番組を見ていたりすることも多く、密着取材OKは取りやすくなっているようだ。
おそらく日本人で外国人の恋人がいるとか、留学生の友達がいるとか、そういう人々の間では一般視聴率を超える視聴率を取ってるんじゃないだろうか。もっともその分、お相手の日本人が取材NGを出すこともある。また日本に来る外国人どうしのネットワークでも「成田に着いたらYOUは何しに~って番組が張っている(笑)」といった情報が回っていそうだ。
この前の放送では英語塾に通う小学生が空港で番組のマネをしていたとこに遭遇していた。それを観た取材ディレクターはその小学生にマイクと腕章を貸してやり、インタビュアー体験を手助けしていた。日本人どうしのこういうふれあいもある。
空港や駅、港にドラマがあるのは100年前からみんな知ってる。日本ドラマの歴史には「君の名は」なんつって橋の上にまでドラマがあった。出会いと別れの最前線というシチュエーションが空港にはある。
島国日本にとって空港は無作為に外国人インタビューをするには最適な場所だ。それをバラエティ番組にどう料理するか、そこがテレ東の上手さ(ゆるさといってもいい)とあいまって成功しているのだと思う。
●空港には誰もが平等に降り立つ
最近のネット用語的には“神回”と言われる伝説の放送回がいくつもある。AKB48の総選挙や握手会のためにイギリスやドイツからやって来た青年に密着していたらAKB48のイベント会場で取材が出来たり、何の知識もなくインタビューしたら実は世界的に有名なミュージシャンだったり。フリーメイソン餅つき大会の初取材に成功した回なども神回かもしれない(笑)。
有名人系ではフジロックフェスのときのTHE INSPECTOR CLUZOへの密着が面白かった。成田空港でインタビューされたときは密着取材NGだった。ディレクターもスタッフもみんな学生に見えたというのがその理由だった。確かに日本人は幼く見えがちだからあり得る。その後、ミュージシャン側の日本人スタッフがこの話を聞いてテレ東に電話してきたことで番組はフジロックフェスのバックパスをもらうことができたのだ。貴重な取材映像が完成した。
日本では有名じゃないが本国では(たぶん)キムタクレベルの有名人という人もいた。ペルーのエリック・エレーラさんだ。しかし在日ペルー人の飲食店にライブで訪れたエレーラさんの人気はものすごかった。また番組取材への対応もとても丁寧で好感度アップ!アマゾンでCDを探したが見つからなかった。
ミュージシャン以外にも様々な人が国際空港には降り立つ。「Youは何しに日本へ?」のカメラの前ではみな平等だ()。日本では様々な分野の国際スポーツ大会や学会、お祭りが開かれる。そういうイベントに参加するトップアスリートや楽団、偉い先生などなど、次々とインタビューを受けてくれる。お忍びで来てるプロスポーツ選手などもいる(取材NGだったりもするが)。
空港というのは公共の場だが、プライベートな場でもある。その絶妙な隙間にテレビ東京は目をつけた。街頭インタビューはどの国のテレビ局もやってるだろう。それを空港でやるから意外性への期待度も高い。
また、日本人は外国好きであり、島国だけに外からどう見られているか(よく見られたい)という意識も高い。その嗜好性にも合致した番組だ。
未来に目をむければ、2020年東京オリンピック・パラリンピックが見えてくる。狙ってやるのでなく、あくまでもさりげなく、「Youは何しに日本へ?」が想定外のオリンピック関係者を直撃している姿が目に浮かんでくるのだ。
●一期一会を飲み屋の客に教えられる
空港でサプライズな有名人に出会うのも面白いが、この番組の醍醐味は無名の外国人、それも数週間滞在の外国人に密着取材できたときだといえる。
日本縦断の旅をしようとやってくる外国人の多さに驚く。もちろんそれは番組でインタビューを受けた人しか見ていないだけで統計的なものではない。
いろんな目的で訪れる外国人のなかでも、あえて旅するために日本を目指した外国人というカテゴリの皆さんは、番組が特番を作る気になるシチュエーションといえるだろう。ノープランだったりすると「みっけー!」てなもんだ。
テレ東は旅番組をたくさん作っているテレビ局だが、外国人目線での旅というのはなかなか面白い。それも作り物ではない行き当たりばったりなことが多いのがこのカテゴリの皆さんだ。
徒歩で鹿児島県から東京を目指す(そしてすぐ失敗した)若者、ガイドブックを目隠し指差ししながら行先を決める二人組、本国でも森の住人で天然温泉を探し求める元エリート金融マン、仙台から下関まで自転車で疾走し釜山に渡ろうとして成功してる自転車レーサー。都内で食べた佐世保バーガーに見せられ食べに来たミュージシャン。彼は思いつきで佐世保にも行ってしまい、佐世保バーガーの歌まで作った(笑)。
番組は彼らの旅にコミットしていく。あえて客観視したドキュメンタリーにはしない。彼らとお店との意思疎通が出来ないとき通訳もしてあげる。そこは取材対象と一線を引く報道番組とは異なるスタンスであり、それがまたバラエティ番組としていい味になっている。ディレクターは出演者でもあり、ときに人間と人間とのふれあいの当事者にもなる。
はじめからそういうスタンスと決めていたわけではないと思う。番組を作りながら、そういう関わり方が自然と身について行ったんだろうと思う。シチュエーションは違うが、ローカル路線バスの旅でもルールの変更(緩和)は見られた。これがゆるさの賜物でありテレ東の伝統芸かもしれない()。108kgのカメラマンが富士山登山を逆NGしてしまうゆるさも含めて…。
この前の放送で、初めて日本に来た18歳の青年がいた。仙台に行く飛行機まで10時間待ちだから成田周辺を案内してほしいとスタッフに頼み込み、プチ密着取材となった。彼は日本語もほぼしゃべれずお金も持っていない。スタッフは彼に5000円のうな重を食べさせてやり、重要文化財のお寺に連れて行ったりした。
外国人の予定に密着するべきところをスタッフが数時間とはいえ旅をアレンジしてやったのはルール違反といえるかもしれない。だがそういうのもアリだなという判断を現場ディレクターがして放送してしまうところにテレ東らしさがあり、それで成立すればOKなわけだ。
地方空港ではほとんど外国人を見つけられず街中で見つけた素敵な外国人女性に密着したこともあった。前日失恋したばかりのその女性とディレクターが飲み屋で飲んでる映像が流れた(笑)。それもアリなのだ。
自転車で仙台から下関まで走破したレーサーに、ある居酒屋で隣の日本人のオッサンが話しかけてきた。そこでオッサンは彼に「一期一会」という日本語を教えてあげる。もう二度と会うことはないであろう出会いだからこそ大切に。最高の言葉を酔っ払いのオッサンから教えてもらった彼の日本縦断は、しかし一期一会という日本語によって明確な意味を持ち豊かになっていくのだっだ。この回も“神回”だったね。
一期一会。まさにその瞬間を拾っては映像化していくのが「YOUは何しに日本へ?」という番組だ。だがたまに、そうやって出会った外国人に会うために彼らの国へ行っちゃうこともある。その再会はいつも面白い。ときに切ないこともある。旅のふれあいのその先にドラマがある。人間の面白さを民放バラエティ番組でこんな風に見せてくれる貴重な番組だ。
●日本語としてのタイトルの面白さ
この番組にルールがあるとすれば、それは外国人をYOUと呼ぶこと。これくらいなのではないだろうか!?
そこにはこだわりがあると思う。
YOUは何しに日本へ?というタイトルは日本語としても興味深い。「何しに」には助詞の「を」がない。ちょっと日本語をかじった外国人の語学魂をくすぐるのではないか。「何をしに」では日本語としての語感が悪い。この日本語のもつポップなリズムをぜひ体得してほしい(笑)。
また「何しに」の「し」も「する」の活用形として奥深い。ここは国語と日本語とで教育法が異なる部分だ。日本語講座では「S+変化形」という教え方になると思う。国語では「し・し・する・する・すれ・しろ」というサ行変格活用だが、そういう教え方では外国人には敷居が高い。Sという子音の活用形としたほうが覚えやすいはずだ。
日本もどう読むかの問題がある。たぶん日本人がこのタイトルを読むなら、ほぼ全員が「ニッポン」と読むのではないか。なぜならその方が語感がいい、歯切れがいいからだ。
「にほん」と呼んでも間違いじゃない。しかし、せっかく「何しに」という助詞を省略した語感を使っているんだから「ゆーは なにしに にっぽんへ」というリズムを大切にしたくなる。
たとえば多少丁寧に「ゆーは なにをされに」と敬語を使ったならば「日本」の読み方は日本人の間でも分散するように思う。私なら「にほん」を使うと思う。語感最重視でいいなら「ひのもと」でも面白い。日本語の話題が広がるかもしれない。
最後の「へ」もなかなかだ。どうして「に」じゃないのか。これも語感の要素が大きい気がする。音にしたときに「ゆーは なにしに にっぽんに」だと、「に」が重なってちょっと違和感がある。この違和感は日本語母語話者以外にもあるかどうか?
実は格助詞の「に」と「へ」の使い分けは日本人でも難しい。いや、難しくはない。どっちを使っても通じるから。言語学的には厳密に違いがあるという学者もいるだろうが、実用的には話しているときの音、語感に左右されることが多いと思う。用法が「に」より限られそうな「へ」を無意識に使うこともある。
こうして見ていくと「YOUは何しに日本へ?」というタイトルが日本語非母語話者の日本語魂をくすぐるタイトルのように思う。もちろんここは私の妄想である。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということわざがあるが、その真逆だ(笑)。贔屓の引き倒しといういい方もあるな。これもいい意味じゃないか。内容がいいからタイトルもいいって上手い日本語で礼賛することわざはなんだろう?
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