キムヨナよりピアソラに詳しくなっていく(笑)
ソチ五輪の女子フィギュアまであと一か月ほどになってきましたね。キムヨナ熱は上昇するばかりですが情報が少なくてフラストレーションも溜まりまくりです。もちろんキムヨナ・アルバムさんが日々提供してくれている写真やリンクに頼ってストレス解消できてる面もあるのですが、オリンピックイヤーなのに日本の地上波に乗る大会に出ていないから4年前とは比較にならないくらい暇です!
だからというわけではないのですが(いや、だからというわけかもしれないですが)、アストル・ピアソラのCDを次々と購入して聴いてます。キムヨナの現役最後を飾る予定の“アディオス・ノニーノ”を作曲した人がアストル・ピアソラ。バンドネオン奏者で、タンゴの世界に革命を起こしたといわれる、タンゴ界の巨匠です。
キムヨナがこの曲で演技することがなければ、おそらくこんなにはまる機会はなかったでしょう。でも聴けば聴くほどに“アディオス・ノニーノ”はいい曲なんですよねぇ。沁みるんだよなぁ。
もはやキムヨナをいったん横に置いといてピアソラを聴いてしまうほどです(笑)。
そのなかでも、今回買った『ライヴ・イン・ウィーン』というHQCDは非常に良かった!ピアソラファンの間でも長く廃盤状態になっていて、ハイクォリティな音質で蘇ったこのライブ盤をベストと呼ぶ人も多いみたいです。確かに音色もいいし、ライブのグルーブもグイグイ来る感じでいいです。
バンドネオンの音色って「まさにタンゴ!」なので、かなり強いんですよね。それにピアノとヴァイオリンが負けることなく調和してる。ピアノの音はJAZZですし。ウィンダム・ヒルのジョージ・ウィンストンのような力強さも感じました。かなり好きなピアノです。
この力強さがバンドネオンと拮抗して緊張感のあるシーンを描き出すんですが、それがセンチメンタルなテーマに移るときの美しさはなんと形容したらいいのでしょうか。ヴァイオリンも効いてるんだよなぁ。
“アディオス・ノニーノ”の場面転換におけるこの起伏の激しさは、キムヨナ好みの演技構成とまさにベストマッチなんだと思うんですよね。
●あえてキムヨナに話を戻して楽曲の重要性を考える
8分以上ある楽曲を半分程度の長さにしてフィギュアスケートには使われるわけですが、ピアノとヴァイオリンで同じテーマが演奏されてもまったく違う風景に見えたり、ピアノソロ(カデンツァ)の終わりからバンドネオンの印象的なテーマが切り裂くように入って来るところなど、静と動の転換が見事な楽曲です。
キムヨナにはこの静と動との転換を完全に演じきれるスピードと表現力がある。007のときと同様に、それが音楽の理解度というモノサシにバッチリはまるという読みがチーム・キムヨナにはあるはずで、“アディオス・ノニーノ”が持つ楽曲の力だけでも加点がもらえそうな期待もあります。それほどに力のある楽曲に思えます。
しかもフィギュアスケートでは選手の人生、そこまでの物語を色濃く映し出すような演技は好まれるように思います。“アディオス・キムヨナ”という自覚をもって、このタイミングでもっともインパクトのある楽曲を持ってきたと言えそうです。
キムヨナにとってこの楽曲は今回しか使えない楽曲だったと思います。それもタンゴで終わろうとしてるわけです。シニアデビューのショートプログラムで「ロクサーヌのタンゴ」を踊り、現役最後のフリープログラムに「アディオス・ノニーノ」を踊る。フィギュアスケーターキムヨナの成長の過程、女の一代記(笑)という物語がそこに意図されており、審判団もその成長の過程をじっくり見てやろうという気分になっていくのではないでしょうか。
そこにはサービス精神とサプライズ精神とフィギュア界特融の一大サーガの構築による無言のコミュニケーションが内包されていて、それがミスのない演技によって滑らかに完成したとき、惜しみない感嘆の渦へとつながるのです。
楽曲選びの過程からすでに勝負は始まっており、その意図をはっきりわからせる必要があるのは間違いないと思います。フィギュアは音楽を氷上のダンスで表現するものであり、娯楽ではなく競技でもあるわけで、そこには意図を伝わる形で示現していくことが求められていると思います。
意図を伝える方法はいろいろあるんでしょうが、チーム・キムヨナの持つ絶妙な大衆性が大きな武器であることは確かです。前衛芸術は伝わりにくい。クラシックは凡庸で退屈。だからといってあまりに大衆的すぎてもフィギュアスケートの文化風土に合わず敬遠されるリスクがあります。
どの線で狙っていくのか。まさにゴルフのパッティングのような選曲と編曲が戦略となってくるように思います。さらにその選手がどんな演技をどんな曲でどのように演じて来たかを審判団は知っているわけで、その流れのなかにちゃんと物語として連続性があれば申し分ありません。
“アディオス・ノニーノ”はピアソラのルーツミュージックであったタンゴの持つ大衆性と、クラシックやジャズが融合してさらに豊かな楽曲として花開いた名曲のひとつでした。タンゴは一部のマニアのものだったけれど、ピアソラはその劣等感を乗り超えて世界に通用する音楽へと昇華させていったわけです。
そういう背景を持つ音楽はキムヨナにもっとも似合っている楽曲だと思えます。よくぞキムヨナとピアソラのコラボレーションが実現したものだと、この奇跡を喜びたい気持ちでいっぱいです。
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