パリ・ヴィジットに感謝
今回のパリ旅行で一番利用価値が高かった(ありがたかった)モノを考えるとパリ・ヴィジットという切符だったと思う。
20年以上前に初海外旅行で二週間ちょっと欧州諸国を巡ったのだが、そのときはユーレイルパス(国際列車含め一等車の乗り放題チケット)に助けられた。パリではカルネ(メトロ回数券)を使った(ユーレイルパスはメトロには使えないから)。そのときのユーレイルパスのありがたみが身に染みていて、今回のパリ短期滞在でも、できることなら全日乗り放題チケットを使いたいと初めから考えていた。
パリは観光都市なので、その手のチケットやミュージアム・パスとの組み合わせでお得になるチケットなどいくつかあった。そのなかでパリ・ヴィジットは細かい設定が何もなく、単に地理的な有効範囲と有効期限だけが決まっているという扱いやすさがよかった。
割高だという意見もよく聞いた。おそらく使い方によってはその都度切符を買うよりも割高になることが多いのだろう。だが周遊切符とはそういうものだ。その料金には安心料も入っていれば、いちいち切符を買う時間を短縮するメリットもある。使い勝手のよさを買っていると思えば金額はそれほど問題にならない。
パリ市内は狭く、メトロにもポイント以外は乗らず観光することが出来る。異国では街を散策するだけでもすべてが“観光”になり得る。特にガイドブックをなぞる名所めぐりよりも、その街全体を感じたいという旅人には歩くというのが一番楽しいひとときかもしれない。
「パリ・ヴィジットを買ったからには何回メトロに乗らなければ元が取れない!」という逆算思考は本末転倒で、むしろどこからでもフラッと電車に乗り、フラッとどこでも降りられる権利を買っていると思えばいい。
特に乗り越し精算という思想がないフランスでは日本の感覚とちょっとしたギャップがあり、フラッと乗って気分がいいからとそのまま先まで乗っていく自由はないのだ(罰金を払えば自由は手に入るが駅員とひと悶着する時間を取られる)。
私が買ったのは5日間ゾーン1-5まで有効な最大期間・最大範囲のチケットだ。それも日本で買って行ったのでもっとも割高だったと思う。実質四日しか使っていないし。でもこのチケットのおかげで交通機関でのストレスは皆無だった。
●地上を走る楽しさも
CDG空港から北駅までもRER B線に乗った。このラインは落書きとスリで有名だった。確かに空港駅とは思えない薄暗い雰囲気だ。外も車内の壁も天井も座席も落書きだらけ。ガラス窓までひっかき傷で落書きされてる。乗客もまばらだし黒人率が高い。でも白人も普通に使っている電車だ。
途中の停車駅もパリ市街とはまったく別の国に来たような雰囲気だった。走っている間の景色もあらゆる壁面が落書きで埋まっている。
帰国のときも空港までRER B線に乗ったのだが、途中駅に停車するたびにフランスは黒人の国だということを強く感じた。旧植民地からの移民や出稼ぎなどもきっと多いのだと思う。でも、そういう雰囲気のほうが個人的には落ち着く。生活者の日常の足として運営されている共和国の車両といった感覚が持てた。もちろん綺麗に越したことはないが。
私の場合はゾーン1-5を買った理由として、初日にポワシーにあるサヴォア邸に行きたいということもあった。ポワシーはRER A5線の終点でゾーン5にある。全部の荷物を持って乗り継ぎしていく必要があったのでチケット購入でゴタゴタしたくなかった。
また2日目にフォンテーヌブロー(2011年にゾーン5範囲内となったらしい)に行こうと決めたときも、思いつきみたいなものだった。電車も良くわからず、一時間に一本しか出ていない電車を発車ギリギリまで探し回った。
リヨン駅のホール3から発車すると駅の電光掲示板に出ていたのだが、どのホームから出るのか書かれていない。それで駅の中をグルグル探し回ったのだが、発車時間の3分前に同じ電光掲示板を再度見たところ、ホームMと表示が変わっていた。どうやらそのホール3の電光掲示板の前でホーム名が出るまで待機するというのが正解だったようなのだ。
ようやく分かったのでホームMへ走った。電車が確かに止まっていたが、フォンテーヌブロー・アヴォン駅行きかどうか確信が持てない。たまたま私が乗ったところに、外国人のおじさんが乗ってきて、先に乗っていた若者に「フォンテーヌブロー云々」と聞き、若者が「ウイ!」と応えていた。それだけでこの電車でよさそうだと私は座席に座ったのだった。
その時の気持ちとしては、「次の駅を確認して間違っていれば引き返せばいいかぁ」だった。もちろんその後ろに「パリ・ヴィジットだしな」がつく(笑)。たまたま正解の電車だったからよかった。
もっともリヨン駅のようなターミナル駅にはチューリヒ行きのようなシャレにならない国際列車も止まっているので、さすがのパリ・ヴィジットもその乗り間違えには対応不能だ。左写真のようなSNCFというフランス国鉄には近づかない(笑)。綺麗な電車には近づかない。
●バスの敷居も低くなる!精神的バリアフリー(笑)
ポワシーでもフォンテーヌブローでもバスに乗り継ぐ場合、このバスもパリ・ヴィジットで乗れる。バスに乗るとき運転手か同上している誘導係の兄ちゃんにパリ・ヴィジットを見せると、切符の刻印器に入れろと誘導してくれる。簡単だ。
フォンテーヌブローでは城から駅までの帰りにバス停で待っているとバスが来た。GARE DE AVONと表示されていた。最初これがフォンテーヌブロー・アヴォン駅のアヴォンかどうかわからなかった。駅以外に行くバスも止まるバス停だったのだ。
「AVONの前にGAREともついてるし、おそらくフォンテーヌブロー・アヴォン駅行きだろうな。」と思って、私が手を挙げてバスを止めた。もちろんその後ろに「パリ・ヴィジットだしな」がつく(笑)。私以外にはバス停でサラダ弁当を食ってる赤い髪の若い女性と黒人の男性だけだったが、このバスに乗ったのは私だけだった。
この時、もしバスが別の場所についたとしても、それはそれで面白いじゃないかとも思っていた。もちろんその後ろに「パリ・ヴィジットだしな」がつく(笑)。残念ながら正しい駅に着いた。
フォンテーヌブロー城は見学料金もパリ・ヴィジットを見せれば2ユーロ割引してくれる(日本語のビジュアルガイドを借りると2ユーロかかるのでそれが無料になったという感じだが)。プチ郊外に行くなら断然パリ・ヴィジットはいい。ディズニーランドも行ける。
今回はあまり乗れなかったが、パリ市内をゆっくりバスで回るというのもいいと思う。メトロは効率的だがいかんせん地下鉄なので景色が単調だ。その点、バスならばふつうの観光地も違って見えそうだし、普通の観光地でない路地などにも入っていける。そういうときパリ・ヴィジットは活用し甲斐があると思う。
ただ1点、難点があるとすればそのサイズだ。メトロの改札やバスの刻印器を通す必要があるため、普通の切符サイズなのだ。いかにも失くしそうな大きさなのだ。だからといって財布に入れておくのも機能的ではないし、いちいち財布を取り出すのも危険だ。
私は着ていたダウンジャケットの左外側に切符を入れる以外に使い道のないジッパーポケットがついていたのでそこに常に入れていた。出し入れも簡単で冬場はそういうダウンジャケットがおすすめ。後ろポケットなどはスリに狙われるから、必ず身体の前面でボタンかジッパー付ポケットがいいと思う。
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