旅のおともは池澤夏樹
最近ハングル学習がおろそかになり、パリ情報やフランス関係の本をメインに読んでいる。タイムリーに池澤夏樹さんの『セーヌの川辺』 (集英社文庫)が出ていたので読み始めた。思い起こすと旅行のおともには池澤夏樹という縁がある。
初海外旅行のときは一緒に行った友人が池澤夏樹のデビュー作『スティル・ライフ』にはまっていて、つられて私も読んだ。それまで読んだことのない不思議な感覚の小説だった。その後社会人となり、ある女性を追いかけてスイスに飛んだとき読んだのは『真昼のプリニウス』だった。これも偶然小さな書店で出会った本だった。
友人の結婚式に出席するためハワイに行ったときも、ハワイの本を探していたら池澤夏樹『ハワイイ紀行』という分厚い文庫本にたどり着いた。IZのハワイアンを知ったのもこの紀行のおかげだった。
そして今回パリ行きを決めて書店で出会ったのが『セーヌの川辺』だった。池澤夏樹という作家の生活は常に旅の中にある。そういう情報が頭にあるから、旅を前にして本屋をのぞくと池澤夏樹の書物が目にとまるのかもしれない。これまで期待を裏切らなかったという信頼もある。
個人編集による世界文学全集が出たときにも数冊購入したが、その数冊は読み終えていない。もしかすると旅と無関係に買ったからかもしれない。
教育テレビで放送されたこの全集の作品解説は興味深く見ていた。出版社の常務さんがブックフェアでこの全集について語られたのも聞きに行った。そこで教育テレビでの放送はどういういきさつで実現できたのか質問したところ「完全に池澤先生のご尽力で」実現したとのことだった。
旅のガイドブック的な読み方も出来なくはない。しかし池澤夏樹の紀行文は精神の旅を誘発する教養の書でもあるし、あるいは旅先で池澤夏樹を読むというスノッブな感覚を楽しむ書でもある。
今回の『セーヌの川辺』を購入したのは夏まえだったが、旅行が近づくまではあまり読みたいとは思わなかった。うちには常に数冊の読みかけの本が積まれており、そのときの気分によってかじり読みをする。
書物はだいたい一度にたくさん買ってきてしまい、すべて最初の数ページだけを買った直後に読む。それがその書物のイメージを形成する。そしてそのとき一番興味がある書物を選んで最初に読み始め、ほかは寝かせておく。
しかし気分屋の私は毎日気分がコロコロ変わる。テレビやラジオ、天気、人との会話などによってもたらされる様々な情報や刺激によって、頭の回路がある本とつながることが往々にしてある。するといま読んでいる本をいったん寝かせて、別の本に移るという行為を何度も行いながらスパイラルにいろんな本を読んでいく。
そのとき読み始めてグルーブが出てきてしまうと優先順位があがり、その本に没頭するということも少なくない。あるいはその途中にもたくさん買ってしまうので常に新しいライバルが現れて私の頭の中で選択を待つことになるのだ。まるで飾り窓のように...。
池澤夏樹の『セーヌの川辺』の続きを読み始めたのは、遅い夏が終わろうとしてる10月に入ってからだった。来月いよいよパリという気分がこの文庫本の優先順位を上げている。ただ、この調子では出発前に読み終わりそうで、いまは読み終わってしまうか我慢するかの瀬戸際に私はいるのだ!
ただおそらく読み終わっても持っていくだろう。おともとはそういうことだ。読み終わっても持って行きたくなるのが池澤夏樹の一連の海外モノなのだ。
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