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2013.06.26

かけがえのない青春エッセイ『石垣島自然誌』を片手に

旅の楽しみのひとつに新しい書物との出会いがある。初めて訪れる土地に行く前に、その土地のことが書かれた本やその土地にゆかりのある作家の本を探す。ガイドブックじゃなく読み物として読めるものが好みだ。もちろんガイドブック必携なのだけど。

この旅を目前にした本探しは、ほとんど儀式と化している(笑)。でもこの儀式によって、ガイドブックをなぞるだけじゃない自分だけの旅のカタチが見えてくる。良い書物に出会えるとその旅の質が変わるのだ。

今回も石垣島に行くことにしてすぐにすばらしい一冊に出会えた。それが安間繁樹さんの『石垣島自然誌』(晶文社刊)だった。

このタイトルを見ただけだと、なんだかお堅い(?)生物学系の入門書か何かと錯覚しなくもない。しかも著者はイリオモテヤマネコの研究で有名な学者さんだ。カタカナの植物名や動物名が次々出てくる本かと私も思った。

しかし良書の匂いを嗅ぎ分けるひとつのヒントは出版社名だった。晶文社は好きな人文系出版社のひとつだ。津野海太郎さんのファンだったりもして(実は「本の学校」でお会いしたこともあったりして)。晶文社から出てるなら、単なる生物学入門じゃないだろうという予感があった。

かくしてその予感は当たったのである。もっともカタカナの植物名や動物名も次々出てくる本ではあった(笑)。だがそれはあくまでも流れの中で挿入されているに過ぎず、本筋は代用教員として石垣島の崎枝中学校にやってきた若き新米教師安間繁樹と中学生たちの一年間のふれあい日誌だった。まぁ石垣島の自然児ばかりだから『石垣島自然誌』といってウソはない(笑)。

この本を称していちばんわかりやすい喩えは「二十四の瞳」かもしれないが、私は安易にそう喩えるのは妙な先入観につながってしまってかえって残念な気がする。

●濃厚で寄り道感いっぱいの青春エッセイ

『石垣島自然誌』は小説仕立てではなく、生徒に慕われた新米理科教師にして動物観察のプロ(当時はまだセミプロか)の著者が、代用教員としての一年間を生徒とどう過ごしたかの随想録だ。

しかしその観察眼というか、生徒への目線はとてもフラットであたたかく、科学者としての視点の鋭さと教育者としての柔軟な思考によって、生徒に慕われていたさまが清々しい。文体も科学者らしく詳細にして簡潔な記述と人間味あふれるユーモア感覚が絶妙なバランスの文章だと思った。

生徒は安間先生の授業をほぼ遊び(遠足とか自然観察)だと思っていたという記述が何度も出てくるけれど、そういう遊びのなかに学習がある幸せは、その後の日本にはほとんどなくなってしまったんじゃないかと思う。

生徒のなかには海人としか言いようのない能力を発揮する生徒がいて、安間先生の欲しがるだろうと思う動植物を獲ってくる者もいれば、駅伝大会前日に泡盛を飲んでくる者もいる。安間先生は苦笑いしながら、それらの生徒の些細な言動もしっかりと記述していく。そこには熱血教師然としたところは微塵もない。そもそもが研究がしたくて八重山諸島に赴任して来た若者なのだ。肩肘張らないけれど、生徒との学校生活を楽しむ“てーげー”な感じがとても安らげるエッセイだ。

時代は1970年。沖縄の日本返還2年前の話だ。その時代の節目前夜という時代にも惹かれた。私は小笠原諸島母島にも沖縄にも返還40周年の節目の年に訪れている。そういう節目節目が好きなのだ。沖縄は偶然ではあったが。

1970年当時の石垣島の写真が何枚か登場する。ずいぶん変わっていることだろうが、同じ場所に行ってみたいと思うのは自然な流れだろう。崎枝中学校にもぜひ行ってみたい。

この中にでてくる著者は代用教員だから、教師としてはたった1年間の記録でしかない。学者としても、この1年間の教員生活の後に大学院に入学して学者として歩み始めるのだ。つまり著者にとってこの1年間とは、一種の“寄り道”、人生のサイドストーリーなのだ。

そこがいいんだと思う。青春時代の寄り道は一生の宝だ。私は25歳のときにもそう思っていたけど、いまでもそう思う。いやそう確信してる。なんでも出来る機会があればやってみることだ。そして記録すること。どんな経験も必ず自分の未来にとってかけがえのないストーリーを生み出すと信じてる。

石垣島に行く前に読み終わってしまったけれど、この本は持っていってガイドブックにする。時間旅行の。

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