年末年始は映画でリーマンショックのおさらい
2013年が始まった。2012年の大晦日に間に合うように2本のDVDを購入した。そのひとつは映画『マージン・コール』(2011年・アメリカ)だ。日本で公開されたのかは知らないが、2008年のリーマンショックを元ネタとして、巨大投資銀行のつぶれる前夜に情報を知りえた内部の人間たちの葛藤をエゴイズム丸出しの企業の論理のなかで描いている。
はっきり言って日本で劇場公開しても客はまったくはいらないタイプの映画だと思う。最終的には世の中が金融危機に陥るところで終わるわけで内容が暗くて救いがない。ヒーローも登場しない。そもそもマージン・コールって言葉の意味が投資をあまりしない日本人には伝わりにくい。誰も聞きたくない言葉だ(笑)。
でもボクはこんな業界内幕モノが大好きだ。とくに実話とフィクションが織り交ざったこういう映画は好きだなぁ。いわゆるファクションってやつだね。
昔テレビドラマで「ブル」(2000年)って超面白いウォールストリートモノがあったけど、あれはまだ明るかった。投資銀行やファンドの人々の特異な人間性とかさまざまなエピソードがちりばめられてて。しかしこの「マージン・コール」はとにかく危機回避と企業倫理との狭間で蠢くエゴイズムの戦いだから笑えるところはほとんどない。
映画館で見たいとは思わない。おそらくリーマンショックから4年程度の時間を経たいまだからこそ見ておきたいDVDのひとつ。年末年始という余裕のあるときでもあったし、いまを逃したらもう見ることもない、このタイミングしかない映画だったといえる。そういう意味では良い選択だった。
もう一本はドキュメンタリー映画『INSIDE JOB』だ。こっちは本当にリーマンショックを題材としていて、あのクライシスが起こった背景をわかりやすく映像化しながら、その当時の金融当局者、政府に規制緩和を進言し続けた経済学者、金融マン、投資家、作家、ジャーナリストなどへのインタビューで構成される。
映画『マージン・コール』とセットで見るのが大正解のドキュメンタリーだった。こういう映画もDVD化されるのがいい。セットで視聴すべきだ。同じようなドキュメンタリー映画に『エンロン』というのがあったけど(これは渋谷の映画館でみた)、同じように当時のニュース映像なども入れながらリーマンショックの戦犯に迫ろうという気迫のあるドキュメンタリー映画だった。
いかにもA級戦犯な人々は残念ながらことごとく取材拒否なのだが、その取材拒否という事実を淡々と文字で伝える演出もなかなか技巧派な監督だった。
あるいはクライシスを幇助したB級C級戦犯ともいうべき大学教授なども、評論めいたことを話しているときは弁舌滑らかなのだが、政府や金融企業との癒着(研究費の援助や顧問契約等)の話になると、とたんに顔色が変わり不機嫌になる。
インタビュアーが「例えば医学者の研究費の8割が製薬会社から出資されていたらどうか」といった婉曲(でもないか?)な表現で聞いているところなども面白かった。ちょうど抗コレステロール薬のスタチン剤の嘘とプロパガンダについて書籍を読んでいるので、どの業界も構造は同じなんだということがわかる。
そしてほとぼりがさめた後に彼らA~C級戦犯どもがどんな報酬をどこからもらっているかが表示されるとあまりの厚顔さに怒りを通り越してただただあきれる。このような神経の人々がいわゆる勝ち組に少なからずいるのだ(あるいは負けたけど数億ドルは返さずトンズラ)。米国の闇はどんどん深まるばかりだ。
オバマ政権でもそのような闇は温存されているとこのドキュメンタリーは示唆している。それに追随するしか脳のない日本政府や各種業界にもこの腐敗の闇は伝染していることだろう。資本主義は構造的に暴走しやすい。規制には必ず抜け道がある。抜け道があるからこそ、そこに注目し差異化し資本主義は巨大化してきたのだ。これからも必ず暴走する。震源がアメリカではないかもしれないが。
そんな世界のなかでボクらに出来ることはわずかしかない。腐敗に関わることなく、また巻き込まれることを出来る限り回避しつつ、しかしそういう構造を利用して一儲けできればありがたいと思う元旦であった。
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