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2012.01.08

ホワイトカラーが「仕事をしたつもり」という既得権益から下山できるか?

五木寛之さんがテレビでインタビューに応えられていたタイミングもあり、昨年のひとくちメモ「『下山の思想』は降りてゆく生き方だった」という記事へ多くのアクセスをいただいてます(記事からamazonでご購入いただいた方もありがとうございます!)。

下山する感覚をポジティブに捉えることは字面からは難しいかもしれませんね。なにか良い例がないかと思っていて見つけた新書がこれ。「仕事をしたつもり」(海老原嗣生著・星海社新書)です。

星海社はいま元気な出版社ですよね。明らかに若者を新しい価値観に導こうという意志があります。その価値観も、押し付けがましい倫理や道徳、あるいは怪しげな宗教やスピリチュアルではなく、「現実社会で生き抜くためにモノを考えろ!」というメッセージになっているように思います。出版物からそれを感じます。

本来出版社とはそういうものでしたよね。なんでもございじゃなく、主張を出版物に込めて世に問い、それが受け入れられることで新しい価値を創造する。何十万部売れることが目的ではなく、届くべき人々に数千部(出来れば数万部^ ^;)届けて行動を促し、そこから異論・反論・共闘の波紋を生む種となる。巨大産業には不向きだけど大志を抱いた編集バカの集団ではなかったか。バカ編集者の集団じゃだめなのよ~。

●いまだ惰眠をむさぼるホワイトカラー大国ニッポン

日本はいつの頃からかモノを考える必要がなくなった国です。あるいはモノを考えると損してしまう国です。それは郵政民営化に反対した若い政治家の城内実氏がコイズミにパージされたとき(2005年)にも感じました。あれから6年経っても基本的になにも変わっていません。

2008年にも採り上げましたが日本生産性本部の労働生産性の国際比較レポートというのがあります。2005年時点で日本はホワイトカラーの生産性(就業者1人当たり名目付加価値)がOECDの先進7カ国中最下位(12年連続)だったわけですが、いま2009年のデータでもまだ最下位ばく進中なわけです。ブルーカラーは今回も2位を堅持しており、この面ではこの国はなにも変わっていません。政治も成果を出せていないといえるでしょう。

2008年のひとくちメモでは「この国は生産性の低い人間ほど偉そうな態度をとる。」と書きましたが、今回紹介する「仕事をしたつもり」はまさにその実態を描いてくれてました。サラリーマンとは仕事をしたつもリーマンであると。これこそがまさにリーマンショックだよ(笑)

ただこの国が残念なのは、そんな仕事をしたつもリーマンこそが「普通」であるということです。誰もが仕事をしたつもリーマンであるために、本当に仕事をしてしまうとムラから追い出されちゃいます。まさに原発安全神話ムラと同じようなことが日常の会社組織にもあるわけです。東電をけなすことなんて普通のサラリーマンには出来ません。明日は我が身なわけです。

●普通のサラリーマンが「仕事をしたつもり」という既得権益を持っている

この本では、そんな仕事をしたつもリーマンから抜け出そうと啓蒙しつつ、一方で抜け出してしまうと損する現実も描かれています。効率化を率先して推し進めれば、それを実現した彼らはパートやアルバイトで賄えるようになり、勤務時間は減り所得も落ちる...。適当に惰眠をむさぼって残業してるほうがカネになる。もっとも仕事してる本人は惰眠をむさぼっている意識などなくマジメにやってると思ってる(信じてる)というところがキモでした。

成果は上がらないけどマジメな人っていますよね。学生時代にもいました。そのまま教材で売れるんじゃないかというくらいにノートをめっちゃキレイに作っているのに成績が平凡な人...。でもマジメさという美徳は誰も非難しないし、受験勉強だったら誰も被害を受けないからそれでよかったんです。

企業にとってはそんなマジメ君は扱いにくい存在だと思いますが、日本企業はそういう人にとにかくやさしいんです。仕事するよりネクタイしめて朝早く来て残業もして会議ばっかりやって結論先延ばしの報告書を見事に作れるのが美しい仕事したつもリーマンの姿だと思います。ムラの誇りかもしれません。本当は埃なのに。

しかもそのようなマジメ社員はそれがまさか「仕事をしたつもり」だとは思ってもいません。それこそが仕事だくらいに思ってます。それはある意味、普通のサラリーマンが持っている「既得権益」ではないかと思いました。ここで「下山の思想」とつながってきます。そんな既得権益の不条理に気付き、まずは自分がその既得権益から降りることが出来るか否か。そこが日本の未来にとってもポイントになろうかと思います。

●仕事をしたつもりに気付いたら気付かないフリをする?

この本を読んで、日本企業のムラ社会のなかで目覚めたらマズいんじゃないか(笑)。途中からそう思いながら読みました。すると、この本はそういう倒錯したリーマン社会で上手くやっていくには、「仕事をしたつもり」をやめて「仕事をしたフリ」を出来るようになれというんです。

つもりとフリのこの違いは、言い換えれば自覚するかしないかの違いです。2時間で出来る仕事を7時間かけてやっていたことに気付いたんだから、仕事は2時間でやっちゃって余った5時間を自分のために有効活用できるじゃないかというわけです。

余った時間には自己投資をしよう。会社に頼らずに生きるスキルを身につけるとか、もっと仕事の全体像を考えるとか、できることを考え実行しよう。そのためにしなければならないことは「保身をやめる」ということだといいます。

なるほど!保身とはズバリ既得権益を守ることではないですか。ムラ社会で生き抜く最大の拠り所。つまり神です。だから“保神”かな(笑)。それに引きずられるといつまで経っても仕事したつもリーマンからは抜け出せないようです。

「全社一丸となって」とか「全社一律に」とかそういう呪文の好きな“保神”は一見論理的で正論なので始末が悪いですが、その正論はマジメで成果の出ない完璧ノートと同じようです。それを言っとけば安全・安心なのです。そんなチャレンジがないところからはイノベーションも起こりえないでしょう。

個々人が自分の既得権益=仕事したつもりを自覚し乗り越え、それを受け入れられる組織(風土)が出来れば、もう仕事したフリもする必要がありません。堂々とチャレンジできるようになるでしょう。これこそが「下山の思想」の根幹と同じだと思えるのです。

●下山の思想も降りてゆく生き方もチャレンジが基本!

最初に紹介したひとくちメモ「『下山の思想』は降りてゆく生き方だった」という記事から「降りてゆく生き方はまちづくり映画だった」という記事へのリンクを辿っていただけた方も多く、その先で数分立ち止まって読んでいただけてるみたいです。

映画「降りてゆく生き方」(主演:武田鉄矢)はロードショー公開をしないで各地で主催者(町や村で上映会をやりたいという一般の方)を募り口コミで広がっている映画なので、なかなか見る機会は少ないかもしれませんが、自治体などに呼びかければ逆にどこでも上映会が開催可能な映画のようです。そういう人々の輪の広がりをテーマにしている映画なので上映会という手法がマッチしてますね。

下山の思想も降りてゆく生き方も、チャレンジが基本になっていると思います。登るだけがチャレンジではないですね。降りることでその成果が確定するんだから。降りなければその登山は失敗なのです。

自戒を込めて言えば、私自身も何かを発案して新しいモノを作るときが一番楽しいです。多趣味なのもそのせいで、取り組んでいるときが一番たのしい。映画の舞台裏(楽屋話)が本編より好きだったりします。

しかしそうやって出来上がった成果物がアートや音楽だったらそれでいいですが、例えば住み良い街づくりだとか、新しい業務フローだとか、新規事業の開発だとか、出産育児だとか、作り上げた先に永く続いてゆく必要のあるものは、その持続性(サスティナビリティ)こそが下山の過程だといえます。

下山の過程で社会は成熟し新しい課題も見えてくるものです。この成熟してゆく過程を無視し、猪突猛進していればいつか倒れます。熟練工が工具を大切にメンテナンスしながら使い続けるように、この成熟した日本社会の質を高めてゆく時代なのではないでしょうか。そのためにムダな既得権益を捨ててチャレンジすることは有意義じゃないでしょうか。

若い人には「まず自分の頭で考えよう」というメッセージがもっとも価値があるように思います。本当に考えなくても生きていけそうに思えるほど成熟してますよニッポンは。でも考えないで楽に暮らしていると、考えなきゃならないときに考え方がわからなくなります。

民から考える力を奪い統治する手法を愚民化政策といいますね。民主党は自民党以上にこれを目指し始めてるのかなと思います。格差社会にもっともマッチする権力の使い方ですから。野田首相は民に何も語らなくなったでしょう。考えさせたくないんです。考えないで憶測や疑心暗鬼でデマや噂が流れるのは彼らには都合がいいんです。これが成功してしまうと格差が確定してしまって、本当にもう数百年立ち上がれなくなります。だから考えることをやめないよう注意したほうがいいと思います。老婆心ながら。

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