禁煙よりもメタボ対策よりも地域絆力が長寿への道!
立川談志さんが永眠されました。毒舌、天邪鬼、天才、良くも悪くも強烈な印象を残して逝った稀代の落語家だったと思います。
ワイドショーでは「徹子の部屋」に出演されたときのVTRが流れていましたね。人間の腹のなかにある非常識の部分を取り出してみせるのが噺家の生き様だと。その言葉通りの生き様をずっと見てきましたが、癌が発見されたときのコメントは別の意味で印象に残りました。
「人間は死ぬときゃ死ぬ。だけど、癌は告知もあるわけだろ。ところが、交通事故なんて、いきなりあの世だ。それに比べれば、心の準備も身辺整理もできるんだから、文句はいえないよ。」
癌告知からの生き方(死生観)を、いつもの毒舌とウィットが混ざった談志流でみごとに表現されていたわけですが、この逝く日までの準備期間という捉え方が一冊の本と重なりました。
先日お会いした中村伸一院長(福井県、名田庄診療所長)の2冊目の著書『寄りそ医』(メディアファクトリー刊)です。
「ええ人生やった」と言うための準備が出来る幸せ。幸せに旅立つ準備期間としての末期医療のあり方。様々な人生との絆を重視し最後まで寄り添う地域医療モデルを日本中に広めたいという野望に燃える男、それが中村伸一医師です。
●町のお医者さん中村伸一院長
中村伸一院長は2009年1月にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介されてから全国区で知られるようになった方ですが、私自身は同年7月に「3人の中村伸一トークライブ」で初めて知りました。もし院長が中村伸一という名前でなければ出会えていなかったと思います(笑)。今月初めてご挨拶する機会がありました。イベントの流れもあるので中村先生ではなくここでも院長と呼ばせていただきます。
中村伸一院長は地域医療のプロフェッショナルです。自治医大を卒業して配属された田舎の村、名田庄村に恋をして、20年間名田庄村で地域医療を実践され続けています。いわば町のお医者さんですね。「町医者ジャンボ!!」という漫画のモデルとも言われてます。外科出身ですが現在は名田庄地区唯一の診療所で総合医として活躍されていて、健康問題のよろず相談所所長といった感じもあります。
今夏お会いする前には最初の新書『自宅で大往生』(中公新書ラクレ)を読んでいたのですが、この新書は名田庄村での地域医療の実践をベースに、日本全国にある様々なコミュニティのなかに、福祉と医療をどう位置づけるかというひとつのモデルを提言されているように思いました。
●患者から見た専門医と総合医
大病院の専門医と地域の総合医との違いは、そのまま患者側の意識や生活とのかかわりの違いと言えそうです。病院には「患者」として行きますよね。当然といえば当然なんですが、「患者」という役割はまさに非日常なわけです。ボクも2003年に1日だけ入院しまして(検査入院ですが)、その“100%患者”という非日常をたった1日味わっただけで、なんとなくへこんでしまいました。
大病院の「患者」はまさに患者そのものです。患う者を専門知識と技術で治療するわけです。患者としての我々もそれを期待して通院します。ここ一番で頼りになる用心棒であり、用がないときはあまり近寄りたくありません(笑)。
それに対して町のお医者さん、とくに名田庄村のようにお医者さんがそこに1つしかない場合、そこはあらゆる病気のファーストコンタクトの場となります。専門が外科だからといって歯が痛い患者さんを帰すわけにはいきません。またそれ以上に、日常のケアの比重が非常に高いのです。地域住民の健康な生活に積極的に関わっていく姿勢、そしてその役割を担いつつ地域=コミュニティで共生していく存在ともいえます。
その反面、コンビニ受診が少ないのも名田庄の特長のようです。ただしその実現の過程にもドラマがありました。村に一人しかいない先生が病に倒れてしまってから、村の「お互いさま」精神が発揮されたんです。詳細は著書で読んでくださいね。読みどころですから!
●地域医療とは病を治すことにあらず
恥ずかしながらこれまでの私にとって「地域医療」は身近な存在とはいえませんでした。地域医療といってまず思いつくのはキューバ医療でしたから。2009年にキューバという国のコンセプトは「生きさせる!」だと書きましたが、キューバで発達しているのがまさに地域予防医療でした。
ファミリードクターがその町で一緒に生活し、代替医療から最先端医療まで幅広く利用しながら、地域に寄り添う医療を実践するキューバ。治療の基本が各個人ではなく家族とされたことで住民参加型の福祉医療へと進化しているそうです。
私の頭の中では、そのような遠い外国の話としかつながらなかった「地域医療」を日本に振り向かせてくれたのが中村伸一院長の著書でした。地域とは田舎だけのことではなく、誰にでもどこにでもあるコミュニティのことであり、そのコミュニティの日常に保険・福祉・医療の連携を生み出すことこそが真の「地域医療」の在り方であるというのです。
今夏発売された2冊目の著書『寄りそ医』では、1冊目の新書よりも中村伸一院長のパーソナリティがよくわかります。タイトルどおり住民の生活に寄り添う医療がどのように実践されているのか、その現場の声と実践の記録が活き活きと伝わってきます。
その表現も絶妙です。中村伸一院長の心の中では矢沢永吉とバカボンパパがささやきます。ときにはアクセル全開で突っ走るロックンローラーの魂が背中を押し、落ち込みそうになったときには「これでいいのだ」と悟りの境地に導いてくれるのだそうです。
●じいさま、ばあさまと「お互いさま」
患者さんの呼び方ひとつとっても面白いです。一冊目は「じい様、ばあ様」だったのですが、2冊目では「じいさま、ばあさま」と「様」がひらがなになりましたね。これは院長もしくは編集の方が意識して校正されたのかどうかわかりませんが、寄りそい度がアップした感じがありますね。
こういうちょっとした呼び名って結構大切です。なかなか実践なくして「じいさま、ばあさま」は出てこないと思うんですよね。この絶妙の距離感が地域=コミュニティのキモではないかと思います。
都会に住んでいると隣に住んでる家族の名前も知らないわけですけど、それでもそこにはコミュニティがあります。それは好むと好まざるとに関わらずあるものです。もしかしたら大地震になって初めて助け合う人々かもしれません。それはそれで仕方がない。
だけど、それでも「お互いさま」「おかげさま」という関係をいつでも築ける心の準備があるかないかで地域医療はぜんぜん違うと思います。知らない人どうしの間にも「絆」が潜在的にあることを今年の大震災で知りました。都会の地域医療は「いざとなったら助け合える関係」くらいから始めてもいいのかもしれませんね。心に余裕を持つことにもつながりますね。
そして近所にお医者さんがいることの安心感と、そのお医者さんを地域で盛り立てていくことが住み良い街づくりにもつながっていくのかもしれません。そして地域医療の担い手である医師自身が地域によって育てられ、お互いを支えあうという良い関係を作れることが大切なんでしょうね。
●長寿コミュニティの作り方
「医療崩壊」が流行の昨今ですが、この言葉も結局マスコミ発信であってコミュニティ発信ではありません。様々な問題があるにせよ、生活に密着したところで実践的に現実的に自分の地域をどう住みやすくしていくのか、それが実は長生きの秘訣でもあるようなのです。
『寄りそい医』のなかに、スウェーデンが国家の健康戦略として取り決めた18の項目の優先順位という面白い指標が掲載されています。そこではタバコの使用削減は12番目、健康な食習慣は10番目です。
では上位はなにかというと、2位が個人をサポートする力強い社会環境、1位は強固な社会連帯と社会共同体となっており、この2つを中村伸一院長は「地域絆力」とおっしゃってます。
人間は社会的な存在だと言われますが、医学的にもそのような考え方が出来るようです。
タバコもやめた、ダイエットもしてる、だけど孤高の企業戦士で極度のストレス...。それは健康にとっては順序が逆ってことじゃないですかね。ま、戦士にとっては長生きだけが人生じゃないかもしれないですけどね...。でももし健康志向だったなら、腹の周りに巻尺巻いてる場合じゃないんですよ(笑)。
日本はもうキューバのように教育と医療を国の根幹に置くような国にはなれないみたいだけれども、地域からなら替えられるかもしれません。少なくとも名田庄村のような取組みが広がっていけば、日本各地に長寿型コミュニティを作れる可能性はありますね。中村伸一院長の著書はそのお手本に出来ると思います。だって日本中を名田庄村のようにする「全日本名田庄化計画」をぶち上げてるんですから()。
●降りてゆく生き方や全体最適との共通点も
「降りてゆく生き方」という映画をご覧になった方いらっしゃるでしょうか?この映画についても2009年に紹介しています。地域再生の物語ですが、「降りてゆく」という感覚は決してネガティブなものではなく、地に足の着いた生活実感から物事を考えようということだと思います。
地域=コミュニティを考えるとき、これからの世の中はただ規模の経済、成長するだけの経済指向では幸せになれないように思えてなりません。
病院ではなく自宅で看取るためには「こだわらない」「がんばらない」「普通でいる」これらが重要だそうです。これらはすべて降りていく生き方に共通するキーワードです。
また中村伸一院長の『自宅で大往生』と『寄りそ医』を読みながら、ふと、これはビジネス書としても読めるのではないかと思いました。そこで思いついたキーワードは「全体最適」と「ボトムアップ」でした。
全体最適についてはTOC理論の発案者エリヤフ・ゴールドラット博士の『ザ・ゴール』の受け売りですけれど、あっとほーむいきいき館の出来る過程やデイサービス開始までの過程は、理想的なボトムアップのビジネスモデルだと思います。
ボトムアップだからこそ現場(地域)の声をビビットに反映でき、さらに総合医という全体最適をめざさざるを得ない院長が音頭をとることで、理想的なアウトプットが生まれているのではないかと思うのです。専門医ではおそらくこうは行きません。指揮者は総合プロデューサーですから、ソリストとは違ったモノの見方が必要なんだと思いますね。これはあらゆるプロジェクトにいえることだと思います。
というわけで地域医療の話があっちこっちに飛んでしまいましたが、中村伸一院長自身のお話しに魅力があるので、講演会等を聞く機会があったらぜひ聞いて欲しいです(もうこれは最初のトークライブから一貫して言ってますけども)。
全日本名田庄化計画のためならどこでも話をするとおっしゃってますので、日本各地で講演会という名のトークライブをやってほしいですね。それを聞いてから読むなら『寄りそ医』がオススメです。人となりがよくわかりますから。もっと広く地域医療について一般的な知識を入れるなら『自宅で大往生』からですね。
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コメント
「寄りそ医」「自宅で大往生」とりよせましたよ~。
いま読んでいます。
スウェーデンの健康戦略のところが気になってしましまして(^o^)
自分の講座でも
紹介したい内容でした。
投稿: 八郎右エ門 | 2011/12/27 10:45
八郎右エ門さんお久しぶりです。
スウェーデンの事例やロゼト効果の話を読むと“地域絆力”の効果はやっぱりあるんだろうなと思いますね。
中村伸一院長はトークも面白いのでもし聞く機会があったら聞いてみてください(企画されてもいいかも)。
投稿: ポップンポール | 2011/12/27 23:08