いまさらながら「スジナシ」の魅力を語ってみる
今朝「スジナシ 其ノ一」のDVDが届いたのでさっそく見た。この番組はずいぶん前から知ってはいたけど、ひとくちメモに書いたことがなかったので、この機会に魅力を少し語ってみたい。
番組の構成はこうだ。笑福亭鶴瓶さんが毎回ゲストを招いて、台本なしのぶっつけ本番で10~15分の寸劇を演じる。筋がないから「スジナシ」だ。舞台だけは決まっていて、お互いの役柄らしきものも一応あるが、本番が始まってしまえば、お互いの探りあいでどうにでも展開できる。まさに真剣勝負のアドリブ芝居なのだ。
現場のスタッフにも何が飛び出すかわからない芝居だが、本番開始後の笑い声は厳禁とされている。また観客も別室に入れ、芝居をモニター観劇させる。静まり返ったなかでアドリブの二人芝居を行うわけだ。
それだけでもスリリングだが、この番組はアドリブ芝居が終わったあと、芝居をモニターで見ていた観客の前に再登場し反省会をしなければならない。そこが非常に面白く、またオリジナリティあふれる部分だ。
さっきまでアドリブ芝居を強いられていたゲストと鶴瓶とが、ここではなぜあのときこんな芝居をしたのか、その心情を語り合う。極限のアドリブ芝居から解き放たれたと思った矢先、今度は極限状態にいる自分を見ながら観客の前で反省しなければならないのである。
●常に鉄板ネタが生まれる
台本のない芝居と反省会。この二段階構成にはうならずにいられない。反省会はある意味映画DVDのコメンタリーを見ているような感覚になる。将棋でいえば感想戦だ。しかしコメンタリー以上に面白いのは、いちいち芝居のリプレイを止めては「何でここであんなこと言い出すねん!」みたいに鶴瓶がつっこむのだ。観客が疑問に思っただろう場面や、まさかの攻守逆転で笑ったと思われるところは徹底的につっこんでゲストに話をさせる。
この鶴瓶のするどいつっこみで、ゲストも観客も抱腹絶倒となるのであった。ゲストはそのつっこみに「頭のなか真っ白で」とか「いや実はこうなる予定だったんで」とかそのときの思いを語る。お互い打ち合わせもなしにやってるから「そんなん伝わるわけあるかいな!」みたいな掛け合いで、さっきの芝居を素材にしたトークの華が咲く。
アドリブ芝居そのものには出来不出来がある。ゲストと絶妙の間合いが出来て台本があるかのようにうまく行く場面もあれば、まったくかみ合わないまま強引に終わらせるときも...。しかし第二部に反省会があることで、芝居のなかのあらゆる出来事がみんなで目撃したハプニングとなりトークの爆笑ネタとなるのだ。それはあたかも飲み屋で方言ネタを肴に盛り上がるような“鉄板ネタ”になってしまうのである。
●フリートークの天才と緻密な構成
思えば鶴瓶師匠は日常のオモシロ話を伝えるのが天才的にうまい。古くは上岡龍太郎との伝説の深夜番組「パペポTV」からオセロ松嶋との「きらきらアフロ」まで一貫してフリートークの面白さを追求してる(いや、きっとボクの知るもっと前からだろう)。しかし単なるフリートークではなくて、その場の持つ力を最大限にするにはどう見せればいいのかを常に考えておられるようなのだ。
「スジナシ」はそんなフリートークの天才が、偶然オモシロの神が降りてくるシチュエーションを求めて雨乞いをしているような番組だ。ここでは鶴瓶師匠は巫女なのだ(笑)。そしてかなりの確率でオモシロの神が降りてくる。ゲストはそんな巫女に自身の内面に潜む素の自分を引き出されてしまう。
ある意味地味な企画番組、それもかなり低予算な雰囲気なのに、圧倒的な支持を受けているのには真っ当な理由があると思う。ここで語れば語るほどオモシロの神から遠ざかっていくのはわかっちゃいるのだが、今流行の一瞬の爆笑だけでない、幾重にもかさなった感情の起伏が詰まっている番組構成に圧倒されてしまうのであった。
●ボクの望む頂上対決!
この番組構成と似たアイデアを一回だけ聞いたことがある。萩本欽一さん、欽ちゃんからだ。欽ちゃんは自身の野球チームゴールデンゴールズの試合を盛り上げるアイデアのひとつに、試合後に劇場で語り合いたいとおっしゃっていた(そのことに触れたひとくちメモはこちら)。どんな試合をしようとも、勝とうと負けようと、それを肴にお客さんと話すとこまでが舞台だという考え方だ。
そういえば欽ちゃんも素人いじりが真骨頂だった。笑いの素人という意味では芸能人ゲストも同じだった。そもそもコント55号とは、笑いの素人・坂上二郎さんの素の面白さを欽ちゃんがあの手この手で引き出す笑いだった。まさに即興コントであり、何が飛び出すか分からないスリリングなコントだった(そして飛びます飛びますのギャグが飛び出た )。
つまり欽ちゃんも鶴瓶師匠も素材さえあれば、最終的にはある水準のクオリティを保つ自信があるということだと思う。ただし待っていてもそうそうオモシロの神は降りてこない。そこで考えた。つねに素材を生み出す方法を。素材さえあれば成立できる空間を。そういうことなんじゃないだろうか。
フリートークの天才がその才能を常に引き出せる場を作り、ついでに交わったゲストや相手チームの魅力をも引き出し、お客さんに喜んで帰ってもらうという、まさにWIN-WINの関係性。イタリア喜劇コメディア・デッラルテから連綿と続く即興喜劇の超進化系ガラパゴスニッポン。お笑い大国の面目躍如だね(>妄想か)
もう言うまでもない。欽ちゃんと鶴瓶師匠との「スジナシ」が見てみたい。お笑いコンビ笑い飯はWボケだが、この二人ならWツッコミだ。鶴瓶師匠がボケに入れるかどうか、かなり過酷なチャレンジになると思う。できれば場所は巌流島ロケで(笑)。古くは佐々木小次郎と宮本武蔵からアントニオ猪木とマサ斉藤まで。ここでスジナシ頂上決戦が見たーーーいっ!
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