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2010.01.03

それでも世界は踊る

2010年になりました。今年もよろしくお願いします。帰省の往路と復路で2冊の新書を読みました。たまたま書店で見つけて購入したものですが、並べて紹介したいタイトルだったので最後に表紙画像を並べてみました。

キーワードはご覧の通り「世界」です。まったく異なる分野の2冊で、ひとつは現代生物学の語り部福岡伸一氏の「世界は分けても分からない」(講談社現代新書)、もうひとつは現代社会の語り部寺島実郎氏の「世界を知る力」(PHP新書)です。

最初に福岡氏のほうを見つけて、一冊じゃすぐ読み終わるのでもう一冊探していて寺島氏のほうを見つけました。関連付けて読む必要はまったくないのですが、連続して読むとなんらかの相関をそこに見出してしまうのもまた読書人間のサガというものでございます。

さらにタイトルに「世界」とついており、一方は「分けてもわからない」と申され、片方は「知る力」と述べられております。いったい世界は分かるのか分からないのか?あーん、面白いsign01 ワシが判定してシンゼヨウ!てな調子で読み始めたわけであります。

●マップラバーとマップヘイター

福岡氏のご専門は分子生物学とのこと。それをベースに書かれていますが、とにかく文章がこなれていて読みやすいです。ちょっとミステリータッチな構成でもあり惹き込まれます。身近な事例や擬人化、あるいは美術やの逸話等を駆使して、いつのまにか分子生物学のコラムになっている。動機付けがうまいからすんなり入れました。読み物として面白いので読後感が良いです。

最後のほうはかなりのページ数を割いてマーク・スペクターというガン研究における天才(天災?)研究者の光と影の物語を紹介しつつ、実験科学の危うさと科学者の誰もが誘惑される“天空の城”について述べられます。天空の城を目指す人々の想いそのものが、第2章で視線の考察に使われたヴィットーレ・カルパッチョの絵画や須賀敦子さんのエッセイ「ザッテレの河岸で」(新潮文庫『地図のない道』に併録)と重なっていくくだりはもう見事に文学してます。

福岡氏の「世界」とは狭義では生物学の世界といえます。その世界認識の方法論にマップラバーとマップヘイターという面白い分け方が出てきます。地図が大好きな人々と地図より勘に頼る人々です。福岡氏はこの違いをジグソーパズルで説明されています。私は迷路の作成を思い浮かべました。

子どものころ迷路を作るのに凝った時期があります。「迷路を作る」というのは結構難しく楽しい作業です。いかに迷わせ最終的に一本通った筋を残すか。迷路を作る作業というのはまさにマップラバーな作業です。入口と出口を決めて、その間の経路を全体を眺めつつ複雑にしてゆきます。では迷路を解く挑戦者はどうでしょう。

どんな迷路も必ず抜けられる方法があります。それは左右どちらかの壁伝いに歩き続けることです。行き止まりも気にしません。壁は必ず出口までつながっていますから。この方法論はマップヘイターといえそうです。全体が見えないなかで壁伝いに手当たり次第に歩くだけです。でも確実に出口にたどり着きます。

ただパズルにしろ迷路にしろ決定的に実験科学と異なる点があります。必ず答えがあるのです。そういう意味ではパズルも迷路も確かなマップがあるなかで、場当たり的方法論の有効性や優位性を安心して試せる場といえます。

しかし実験科学には確かなマップがない。あるいはマップ通りの進行では発見がないとも言えます。出口のない迷路に迷い込む危険が常にあり、そこで真のマップヘイターとなれるか、嘘でもいいからマップを作ってしまうか、そういう不安や誘惑との戦いがあるわけです。

...と、ここまで書いてきて、なぜ世界が分けてもわからないのか、まったくわからないままですよね?そうなんです。どれだけ個々の章について書いても結局分からないと思うんです。もちろん全体と部分との捉え方で世界の見え方が変わるという示唆はたくさん出てきます。またエピローグではまとめのような話も出てきます。

しかしおそらくそんな表層的かつ部分的な捉え方から一歩踏み込んで(あるいは俯瞰して)みると、この新書の通奏低音のようなものに部分と全体との分かちがたさが滲んでおり、いろんなエピソードを重層的に捉えることで分かちがたい世界を表現しているかのようなのです。

分かちがたい世界を分かち、動的な全体を静的な部分として捉えることしかできない最先端科学の苛立ちを伝えたかったのかもしれません。同時に、進むべき方法論がそこにしかない以上、少しでも世界を知るためにはあえて分かつことも必要であるということかもしれません。

●ネットワークのなかに日本をどう捉えるか?

福岡氏の著書によって「世界は分けてもわからないが、分けてみなければわからない」という禅問答のような頭になっていたところに、寺島氏の大変分かりやすい世界認識の方法論はまた違った面白さがありました。なんたって最初から世界を知る気マンマンですから!

もっとも注目すべきは歴史に学ぶという姿勢でしょうか。「歴史に学べ」というのはジム・ロジャーズおじさんや藤井財務大臣もおっしゃってる。その学び方といいましょうか捉え方が寺島氏らしい新書です。

大中華圏やユニオンジャックの矢、そしてユダヤネットワーク。悠久の歴史の流れを背景とするこれらのネットワークは現代においてもしっかりと根付き、様々なビジネスや文化交流の地盤となっています。これを読むとイギリスのビートルズがインド文化に触れる自然な流れすら深読み出来そうな気分になります。

これらのネットワークというのは、世界にレイヤーをかけて見る感覚といえそうです。レイヤーというのは「層」です。単純に地図を見るのではなく、ある関係性なりキーワードなりでつないでいくと、見えなかった全体像が見えるようになります。私が昔日本地図をご当地ラーメンのレイヤーをかけてみたように(笑)、世界を様々なレイヤーによって色分けしてみることで世界を知ろうというわけです。

つまり世界を空間(地理)的な部分で切り分けるのではなく、時間(歴史)的な動きによっていくつもの層でグループ化して認識しようという試みのようです。これは「世界は分けてもわからない」という福岡氏の分子生物学にも通じる部分ではないでしょうか。

「全体知」という何かがそこにあるわけではありません。人類の関係性を“知る”ために、そして現代という歴史の最先端を“知る”ために、このような方法論を提示していただいたわけです。

それらを踏まえたうえで日本を語られているのですが、正直私には日本が孤立化を辿っているとしか思えませんでした。湯けむりスナイパー新春2時間スペシャルの「50年愛」じゃないですが(笑)、アメリカへの約50年間の片思いという形でしかグローバルな視点を持ち得なかった日本は、アメリカを含むあらゆるグローバルネットワークのエアポケットのような存在になろうとしています。

寺島氏の場合は現政権とも近いため「何とかしたい」との思いで書かれているとは思うのですが、その立場から離れて日本を認識するとエアポケット以外のなにものでもない。冷静な歴史認識を学校教育にも採用する必要がありそうですが、新しい歴史を作りたい人々によって歪んだまま繁栄してきたこの国ではちょっとムリだと思いました。

日清戦争以降変化した大陸へのバイアスから“降りる”のには、まだまだ時間がかかります(教育とセットでなければ時間だけではムリですし)。歴史認識を他国と共有して未来を創造する意志を持たない限り、地理的にも歴史的にも厳しい立場に追いやられそうです。もっとも「国家」を意識しない個人としてのグローバル化は可能かもしれません。

●極私的な世界認識論

世界を知ることが出来ようと出来まいと人は世界を知りたいと思う生き物のようです。その思いが生産活動の源泉になっているのかもしれません。

私の場合、マップヘイター的に様々な事象を比喩的に捉えて別の世界にあてはめたい願望が強いです。それが可能な人間の活動とは、もしかすると細胞や分子・原子の活動と黄金比でつながっていて、結局のところ細胞の運動を拡大再生産しているだけかもしれないなと思ったりします。いまの自分が未分化の細胞なのか、機能が確定した細胞なのか、まだわかりませんが...。

個人としての活動も社会とどこかでつながっています。社会も地球とつながり、地球は宇宙とつながり、宇宙は...。それらの動きがすべて比喩的に表現できることの発見と自覚が理性を生み、様々な科学や芸術の成果物として提示される。そういう仮説に立てば、未知の世界をマップラバー的仮説(比喩)を用いて進むことが可能です。

「未知の世界と身体とは何らかの黄金比でつながっている」というこの世界認識論もまた甘美な“天空の城”と怒られそうですが、そのようなロマンチストであることも生きる意味を考えるうえで有効ではないでしょうか。そもそも生きる意味なんて分からないんですから。どこかで納得してあえて生命活動を止めないという、ただそれだけのことかもしれません。分からない世界を分かろうとする意思がある限り、人は死のうとは思わないでしょう?世界は分からないからこそ生きる価値があるともいえそうです。そんなことを考えた2010年の正月でした。

世界は分けてもわからない世界を知る力

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