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2009.11.03

矛盾を矛盾のままに書く

中島さんが紫綬褒章なんていただいちゃうもんだから、中島みゆきナイトの熱からまだ醒めない今日この頃です。語りつくせなかった想いなど、まだまだ書きたいことはあるのですが、あまり飛ばしすぎてもオンエアまでにバテそうなので閑話休題...って感じで軽く世界文学の話でも。中島みゆきさんの世界とも後半つながってますが(wink)。

NHK教育テレビでやってたなかにし礼さんの「不滅の歌謡曲」が大変有意義だったことを前に書きました。毎週月曜早朝の再放送を録画してたわけですが、たまたま番組が終了して次の番組が録画されてました。それが「池澤夏樹の世界文学ワンダーランド」です。これがまたあまりに面白くて、思わずテキストを買って毎週録画を続けているんです。

池澤夏樹さん個人編集による「世界文学全集」の配本が始まったのは2007年秋でした。河出書房新社が創立120周年記念事業として池澤さんの感性で集められた「世界文学全集」です。そこにはいわゆる世界文学全集とはまったくことなる『世界文学』の世界が広がっていました。

21世紀に紙の文学全集の企画を通した出版社も英断だと思うけど、それを個人編集で受けた池澤さんもすごい。確かに説得力を持ってこの仕事が出来るのは池澤夏樹をおいて他にはない人選なわけですよね。そして選ばれた小説の独特なこと!こんなコンセプトの企画が通ったら、さぞかし気持ちいいだろうなぁ(笑)。

この番組では、全部を紹介するわけにはいきませんから7編を選んで池澤さん自らがなぜその小説(現代小説)が「世界文学」たるのかを道案内してくださいます。あぁ夢のような時間だねぇ。なんだか読んだ気になっちゃうよねぇ(coldsweats01)。

テキストのはじめにのところに、池澤夏樹さんがものすごく深いことを書かれていました。

近代以降の世界文学は「国境や言語・民族を超えて普遍的な価値を持ちうる」という思想のもとに地理的にも拡大してゆき、異民族・異文化間の往来も激しくなったことで、「それまで書く側に立てなかった人たち」が文章で思いを表出させ始めたという背景があるそうです。

そしてここがもっとも感銘を受けたところなんですが、「抑えていた深い悲しみや喜びを表現するには小説にしたほうがいい」「なぜなら、小説は矛盾を矛盾のまま書くことができる」とおっしゃるのです。ほんとうに目から鱗とはこのことですわ。

そのような現代社会には、現代社会だからこそ生まれた現代小説があるってことですよね。植民地の独立や女性の社会進出の流れのなかで、ペンに思いを託した小説家たちがいる。現代に生きる我々が読むべき小説は現代にこそあるというひとつの視点で編まれた全集だというわけです。

●虚構から現実へ 同時代の当事者になる

小説をほとんど読まない時期がありました。虚構の世界に興味がなくなっていたといいましょうか。ノンフィクションの面白さに小説はかなわないとどっかで思ってた時期がありました。社会人になりたてのころとか特に(smile)。現代に鋭く切り込むルポルタージュやノンフィクションこそがいま読むべきものだみたいな。

しかし矛盾を矛盾のままに書くということができるのは小説の持つ大きな力であると聞いて、ハッと思うわけです。虚構のなかに真実があるという中島みゆきの世界に通じるものを見つけてしまったわけです。

矛盾を矛盾のまま書く。そう書かざるを得ない苦悩こそが文学なのかもしれない。答えがあるなら小説にする必要はないのかもしれない。そんなものは「図解 60分でみるみるわかる楽しい生き方のヒ・ミ・ツheart01」なんてエセビジネス書にでもすればいい。

現代小説が矛盾を矛盾のままに書けば、読者はこの同時代のなかに存在する矛盾に気付かされ、いきなり当事者になってしまう。古典にはない現代文学と読者の新しい関係性が現代小説の中には存在している。虚構がいま生きている現実世界を照射する。そんな小説があるなら読んでみたいと思った。ノンフィクションを超える可能性がありそうじゃないか。

そして道案内が池澤夏樹さんだ。ボクはスイス旅行に行ったとき「真昼のプリニウス」を読んだ。偶然選んだ文庫本だった。そのときのことを「ジャムとサラミとトマトジュース」って文章にちょっとだけ書いた。ハワイに行ったときも「ハワイイ紀行」を読んでいた。ま、池澤ファンが聞いたら鼻で笑われる程度の読書量だけど、旅先で池澤夏樹さんの本を読むと、そこで何を見て何を感じるべきなのか自分で考えるようになるのだ。

旅と池澤夏樹との親和性は読んだ人なら皆知ってる。だからこそ現代の「世界文学」の旅もまた、池澤夏樹さんの道案内とともに歩んでみるのもいいかもしれないと思った。この番組で紹介された7冊だけでも...。

マイトレイ』(ミルチャ・エリアーデ)
サルガッソーの広い海』(ジーン・リース)
フライデーあるいは太平洋の冥界』(ミシェル・トゥルニエ)
戦争の悲しみ』(バオ・ニン)
老いぼれグリンゴ』(カルロス・フエンテス)
クーデタ』(ジョン・アップダイク)
アメリカの鳥』(メアリー・マッカーシー)

このなかで偏見を恐れずに(笑)中島みゆきファンにオススメするなら、『サルガッソーの広い海』ではないだろうか。

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