バイノーラル録音@安谷川渓流
気力、体力、自由な時間、天気、そして季節の5つの条件が奇跡的に折り合った土曜日、久々のフィールド録音に出かけた。日帰りできる場所で良さげなスポットを探しに探し、アタリをつけた場所は奥秩父。いやー、録音ポイント的にもお散歩にもいいところだった お約束の(?)熊出没注意という看板にもめぐり合えた。
昨年の連休には高麗川の録音に出かけ、そのノリで小笠原諸島母島へも録音旅行に出かけた。我ながらこのときの録音がどちらも予想以上に良い出来栄えで、もう近場で録音スポットを見つけるのは難しいかもと思いつつ、日々Googleの航空写真を眺めていた。最初の高麗川が良すぎて、ハードル上がりまくりなのだ。今回も高麗川再訪にしようかとすら思っていた。
●録音スポットを探す旅(頭の中で...)
航空写真で見つかるような河川というのは川幅も大きくフィールド録音には向かないと思う。せせらぎとか渓流はそういう河川から脇に逸れた支流にあるんじゃないかということに気付いて、そういう場所を探した。さらにサイクリングコースとかそういう雑誌類をめくっているうちに「荒川上流」というコンセプトがふつふつと湧き上がったのであった。
首都圏を還流する全長173Kmの荒川。東京湾のあたりをイメージするとまったく録音気分にはならない。しかし上流域には武甲山や両神山を望み、秩父湖のある秩父山地へとつながる。その荒川にはいくつもの支流があり、まさに渓流の宝庫じゃないか。そう思ってからは荒川に注ぐ支流に絞って吟味した。
ただし交通手段は電車のみ。あとは徒歩だ。となると駅周辺がすでに自然のなかでなければならない。さらにいわゆる観光・行楽スポットはダメだ。雑音が多すぎて録音には向かない。そういう場所をはずしながらも、美しい渓流でなければ気分が乗らない(笑)。つまり良い録音スポットというのは基本的に情報がないわけだ。
しかしあえて観光・行楽スポットの雑誌を読み、載っていない場所を探した。ウラ読みだ。そして渓谷とか渓流と名の付く川をネット検索しつつ、情報量が少ないけど写真がある渓流を探した。最近はブログでハイキング情報や散歩コース、ツーリングコースなどを書いている先達やジモティーがいらっしゃるので助かる。
ほとんど観光や雑誌の取材が行かないけど美しいポイントを彼ら彼女らは知っているのだ。ただしボクとは目的が違う。美しい景色には高台が多い。だが録音には風の影響が少ない場所のほうがいい。そうやってようやく探し当てた今回の録音ポイントが安谷川渓流だった。
●駅近で絶好の録音ポイント出現
安谷川(あんやがわ)も荒川上流域の支流だけど、あまり駅からはなれていない。駅は秩父鉄道の武州日野駅。秩父鉄道には初めて乗車したが、寄居駅を過ぎたあたりから俄然自然が多くなってきてワクワクした。
長瀞のライン下りが有名だが観光地には興味のないオレ...。急行に乗ったので秩父駅の次の御花畑駅で各駅停車に乗り換え武州日野駅まで。終点の三峰口駅(埼玉県最西端の駅で関東の駅100選に選ばれている)の2つ手前だ。急行は200円高いけれど乗り心地がよかった。帰りは三峰口まで行って急行に乗って帰った。
録音スポットまでは約20分程度だっただろうか。お蕎麦屋さんの横道から下っていくと、シカやイノシシ避けの防止ネットがあり、開閉のお願いが書かれてあった。そこを抜けると木橋が架かっていて遊歩道になっていた。駅から20分でこの景色。そしてこの清流。なんとも豊かな清流だった。
安谷川渓流のこのあたりは、散策でいえば9月のソバの花とか2月のザゼンソウの時期がオンシーズンのようだ。また夏には釣場が営業していて観光客も結構ありそうだ。5月も新緑の季節ではあるが秩父一帯が皆新緑の季節なのであえて武州日野駅でなくてもいいはず。だがフィールド録音にはこういうとき・ところこそ願ったりかなったり!
木橋を渡った先のあたりを上流へ少し歩き、最初の録音をはじめた。水量が結構多くゲインを低めにしてうるさくない音に。売り物の清流CDのなかには世界の有名な河川があったりするが、結構うるさいのが多い。だが録音してみるとわかるのだが、案外普通の小川ですら音量的には大きくなりがちなのだ。ほとんどノイズになってしまう。
川の音には水滴の不規則なリズムがバイノーラルにほとばしる感じを求めているわけで、ザーザー流れる川の音は趣きに欠ける。頭の後ろのほうでザーザー流れているらしいなぁというくらいの感じで、目の前では水滴の音がハッキリと聞こえる、というのがいい。そういうポイントを探すのはなかなか難しいけど...。
安谷川も水量が多いため結構音がデカい。ただ奥秩父らしく巨岩や岩が多いので音的には面白い。ポイントを数メートル変えるだけで音が異なる。水滴のポチョポチョした感じはないけれど、岩肌をなでるように流れる水が、ちょうど相場が高値でグズグズするときの三尊天井(ヘッド&ショルダー)型のように跳ね、そのグルーブが気持ちいい。わかんないかもしんないけど(笑)。
安谷川渓流の音
(MP3/808KB/51sec)
これはちょっと単調だったのでボツにしたポイントの音だけど、水量の豊かさとか環境の静けさとかはよくわかると思う。このほかにも、砂洲(sandber)的になっているところから左右に流れる川の音をバイノーラル録音したり、左右を巨岩に挟まれたポイントで出来る限り水面に近づいて録ったりした。
岩が多いためシンセドラムのバスドラみたいなボーン、ブォーンという音がたまにしたりする(耳を澄ませて聴けばだけど)。これは水がモーグルの上村愛子選手バリにバウンドしている音だと思う(笑)。U字カーブになってるポイントのあたりだと思うけど、そういう川の個性を発見するのもまた楽しい。
渓流のフィールド録音はまさにライブ録音。だけどその音は太古から連綿と続く大地の音でもある。この時間軸と空間軸とに思いをはせながら、自然音を切り取りパッケージングするのが楽しい。ハイキングも兼ねてるからより楽しい。「奥秩父の荒川支流の音」という発見は個人的に大きかった。何度も楽しめる。まだまだ荒川上流域には、いくつもの支流がオレを待っているのだ()。
帰りも秩父鉄道で熊谷駅まで戻りJR高崎線(湘南ライナー直通)に乗り換えた。寝てたら赤羽まで行ってしまった...。赤羽で降りて、下りの京浜東北線に乗り換えた。赤羽駅と川口駅の間にも荒川が流れている。大きな川幅だ。あぁ、この荒川の上流域から帰ってきたのかと思うと、見慣れた荒川も感慨深く通り過ぎた。
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コメント
うっわぁ~
変わった趣味をお持ちですね。
すばらしい。
「音」聴かせていただきました!
僕も月一くらいで渓流の音を生でききます。
釣りをしながらなんですけど(超初心者)
まだトワイライトな時間に一人で自然の中にいるのが、何というか格別なんです。
実は山小屋を長野の山奥に買ったんです。
神奈川に住んでいて、親の家に同居、庭には仕事がら職員やお客さんが365日いる…って環境でして。。家にいてもくつろげない…。目一杯がんばって余暇はゆっくりしたい性格です。
http://www.aoicare.com
↑わたしの仕事
外に出れば昼飯食うだけで5.6千円あっという間に(子供3人いますし)消費。
雨が降ればショッピングモールとかについいってしまします。
僕の子供の時は親と食事に行っても「普通のラーメンでいい」とか遠慮!?していたものですが、うちのこたち遠慮がない。
消費生活にずっぽりとはまってます。
これは良くないとおもいました。
ならば旅行にも行かず、買い物にも行かず、圧倒的な山ん中で自炊して週末を過ごそうと一念発起しました。
ちなみに近場の山中湖なんかは区画が整理されている別荘地で、川も少なく魅力を感じませんでした。
ちょっと遠いけど、
結果として薪割りや釣りなど新しい趣味もでき満足しています。近所のおじさんがシカ肉くれたり、土地の大家さんが煮物やつけものくれたり、いいところです。
なんかヤマメとか釣れるのはおまけみたいなもので、水の音(人間が一番リラックスできるそうですね)と緑に包まれているだけでたのしいんですよね。
このまえ石からおちて本当に水に包まれましたが(笑)
長野もいいですよ~
投稿: 八郎右エ門 | 2009/05/29 11:53
八郎右エ門さん、こんちは。
変わった趣味、ですか()
まぁ、そーですわなー。
かわってますわなー。
もともとは「バイノーラル録音」への興味から入ってるんですけど、タイミングよくフィールド録音界の第一人者、ジョー奥田さんのお話を聴く機会があったりして、俄然自然音録音への興味が強まりました。
それはそうと山小屋所有ですかっ!くーっ!すばらしい。渓流釣りと渓流録音とはポイントが似てるんですよねー。さらにいいのは、録り人は釣り人の邪魔にならない(笑)。
山に居場所があると夜中の森の音が録れるじゃないですか。深夜の森はかなり怖いんですけれど、いつかチャレンジしたいと思っているんです。夜明け前の朝と夜とが混在した神秘的な時間...。その時間帯でしかクロスオーバーしない夜の音と朝の音が存在するらしいのです。あこがれるなぁー。
お仕事サイト拝見いたしました。福祉関係の仕事だということは復刊の「ブラ・オデ」に書いてありましたね。これから益々重要になっていく業界ですね。
藤沢もいいとこですよねー。実は昔クッチーネでよく飲んでました(いま名前変わって藤沢プライムかな?)。鵠沼海岸で1990年に行われたサーフ'90ってイベントにバンドで参加したりして...(ドヘタだったのであまり思い出したくない過去だけど(((^_^;)。
長野は確かに惹かれますね。日本の屋根ですからねぇ。河川の上流を辿っていくと信州にたどり着くという...。信州信濃の新そばよりも、あたしゃあんたのそばがいいなんて申しまさぁねぇ。
そばがうまいところは川も清流ですよね。奥秩父の安谷川のあたりも手打ちそば屋さんがいくつかあって、なかなかよいところでした。日帰りできるところにこういう清流が残っているのはうれしいもんです。
投稿: ポップンポール | 2009/05/30 00:31
あ・・・
かわった趣味ってNGでしたか?
ほめことばのつもりだったのですが。。
いや、僕の(野庭の)先輩もしってました。オーディオとか、録音とか好きな人でして。うちの演奏会の録音もこの人がやってるんですが、「ポールさんと話が合いそうだなぁ~」って、土曜日の練習後、一緒にラーメン食べながら思ってました。
山の夜はですね・・・
怖いです。慣れていない時はホントに怖かった。1階で寝たくないくらい。
本当に真っ暗ですからね~
先輩一家と泊まり、カブトムシを探そうと歩いた時もライトの明かりの頼りないことといったらなかったです。
最近は少し慣れましたが。
「人口よりも獣の数が多い」村人談
…ってところですので、雪のつもったあとに散歩すると、うさぎだとか鹿の足跡が家の周囲にもいっぱいあります。
そういう中での人間って、頼りない存在だなぁと思います。
いまだと笑い話ですが、
山を越えると群馬の御巣鷹山が近いし、ダムや湖があるので、PCで情報検索して「幽霊スポット」になっていないか確認しちゃいましたもん(笑)
でもそれゆえに環境はいいですよ。
上記の先輩は人のうちに勝手にオーディオ機器を搬入してマニアックな音環境を作ろうと画策してます…
ログハウスの木はいいみたいですね。
お蕎麦屋さんもすぐ近くにありますよ!
超隠れ家的なやつが。土日祝しかやってません。釣り好きがエスカレートしてこの村に住んでいるおじさんがやってるの。
「おいしい」
平日は釣り三昧みたいです。
まあ平日に観光で、お客さん来るようなところではないし。。
しかし・・
ポールさんって何者(失礼)
趣味や嗜好の幅がものすごいし、仕事とかすっごい気になる
しかも藤沢ネタまで…
相当な知識人なんだろうなぁとはおもってましたが。
まぁサムシングミステリアスな関係がネットのいいところではありますけどね。
投稿: 八郎右エ門 | 2009/06/01 12:02
八郎右エ門さん、おはようございます。人口よりも獣が多い村っていいですねぇ。いまの日本は15歳以下の人口よりペットが多いそうですが(^_^;)。気持ちをオンオフできる場所を持てるってのはいいですよね。深夜の森は怖いですよね。ほんとに熊が出ますからねぇ。
>かわった趣味ってNGでしたか?
いや全然NGじゃないですよぉ。基本的に変わってるので。それが私です(笑)。こんなもんじゃないんです。脱いだらすごいんです(古っ!)
といっても本格的な録音マニアとかオーディオファンには足許ににも及ばないです。広く浅くいろんなことやりながら生活してますね。もともと飽きっぽい。趣味にもサイクルがあって、時期が来ると集中するけどサイクルを外れるとまったくやらないみたいな感じで。だから部活とか苦手で()。
どっちかといえば、やってる内容よりもそうやっていろいろやりながら相互に関連させて自分なりの面白みを発見すること自体が趣味かも...。風が吹けば桶屋が儲かる式に論理の飛躍を遊ぶのがボクの究極の趣味ですね。ことば遊びをするためにいろいろやってる感じです。だからブログ書きには向いてると思いますね。すべての行動がことば遊びのためにあるようなものなので。浮世の流れ者です。
日常生活は地味ですよ。目立っていいことは何もないんで。知識も乏しいです。体系的な知識じゃないんで。ただのプチサブカル野郎なんです()。自分が何者なのか自分でも知りたい自分探しの旅の者です。たぶん一生テーマを変えながら探求しては逃げていく人生でしょうなぁ。何かに属したくない願望みたいなのを持ち続ける永遠のアマちゃんです。
ブログに仕事は持ち込まないというのが大原則なので、ポップンポールはジャ爺とボサノ婆に拾われて成長しロックアイランドのロックどもを退治して「ロックは死んだ」と叫び、ロックンロールから一本取ったヤツとだけ覚えておいてください(オレってめんどくせっ!)。
でも、もし会う機会があっても人前でポップンポールって呼ばないで(笑)。これ声に出して呼ばれるとめっちゃ恥ずかしいから。2音節だからかも。ポップンなら大丈夫です。あえて「よぉポップンポール!」と言うヤツもいるけど!!
投稿: ポップンポール | 2009/06/02 08:02