仕事道楽は道楽仕事じゃ生まれない
プロデューサーという仕事はつくづく大変な仕事である。営業と総務と経理の責任を一手に引き受けつつ、現場を盛り立て仕事環境を作っていかなければならない。究極の裏方稼業だ。好きでなきゃ出来ない。そんな仕事を「道楽」といえる鈴木敏夫さんの図太さというかちゃらんぽらんさというか、そのバランス感覚は稀有だと思う。
余談だが「仕事道楽」と「道楽仕事」とは微妙に(大いに!)異なる。昔『編集バカとバカ編集者』という名著(笑)があったのだが、まさにこの「バカ」の位置と同じくらいに「道楽」の位置が重要だ。2005年に発行された鈴木敏夫著『映画道楽』も、道楽映画じゃ誰も見ないだろう(笑)。言葉ってのはほんの小さな違いが大切なのだ。そしてプロデューサーという仕事は言葉の魔術師でなきゃ勤まらない。
鈴木さんのキャリアは徳間書店での雑誌編集者から始まりスタジオジブリのプロデューサーへとつながっている。編集という仕事も裏方稼業だ。作品は他人が書き描く。編集者もプロデューサーも、その作品作りの環境を整え人と人のつながりを創造する。
ボクにはそんな裏方稼業で作られた環境やチームそしてその過程そのものもひとつの作品に思える。というより、そっちの作品にこそ知りたい情報や感動があると思っている。だからプロデュースを生業としている人の本が大好きだったりする。2年前に更新したきりほったらかしなのだが、セブン&アイのみんなの書店にジオイ堂という書店を出して「プロデュース堂」なんてコーナーも作ってるくらいに裏方稼業が好きだ。
さて、調べたらウチにはジブリのDVDが4枚あった。
「「もののけ姫」はこうして生まれた。」
「大塚康生の動かす喜び」
「ラセターさん、ありがとう」
「ジブリの絵職人 男鹿和雄展 トトロの森を描いた人。 (Blu-ray Disc+DVD)」
以上の4枚で、実はぜんぶ映画作品じゃないのだ...。
それはもう確信犯的(?)に裏方系DVDばっかり買ってる。宮崎作品としては「未来少年コナン」と「カリオストロの城」は持っているけれど、ジブリ作品じゃない(よね?)。もちろん映画作品を映画館で観ている場合はあるがDVDでは持ってない。ジブリ作品はいつでも観られるという思いもあるし、逆に裏方系は入手しとかないとそのうち入手困難になってしまうかもという恐れがあったり。
『仕事道楽』ではジブリの2枚看板である高畑勲と宮崎駿のエピソードがふんだんに出てくるが、ボクがもっとも面白かったのは2000年に他界された徳間康快(徳間書店初代社長)のエピソードだった。
●徳間社長の思い出
ボクにも徳間社長には強烈な思い出がある。就職活動で徳間書店を受けた。出版社は結構受けたが、最終面接でもないのに学生数人の前で1時間の演説をぶった社長は徳間さんだけだった。机を囲んで待っているといきなり徳間社長が現れたのだった。
そこから1時間。話された内容はもううろ覚えだが、たぶん「徳間ジャパンでは何でもできるぞ。やる気があるヤツには面白い会社だぞ」ってことを熱烈に話された。徳間書店を受けに行っているのだが徳間ジャパンとして話されてた。いまから思えば、だったら入社させろよって話だけど()。読売新聞出身だってのは知ってたから、ブンヤというのはこんなにバイタリティあふれる人種なのかと思った記憶がある。もっとも徳間社長が特殊だったわけだが...。
そんな徳間社長のもとでアニメ雑誌の編集をしていたのが鈴木敏夫さんだったわけだ。どんなに厳しい状況でも楽しんで乗り越えようとするバイタリティはまさに徳間魂かもしれない。
『仕事道楽』に出てくる強烈なエピソードにある「金なんて紙だからな」なんてこと言う社長と仕事する機会はめったにないだろう。そんな豪放磊落な社長と出会い、社員総会でいたずら小僧のような社長の仕掛けにはめられた経験などを爆笑しながら読むにつけ、どんな出会いでも受け取り方次第で自分の糧になるもんだなぁとも思ったりした(笑)。
ようは人間、考え方次第で学習機会が転がっているってことだ。出会いを自分の糧にしながら、自分も他人に影響を与えつつ作品と自分とを作っていく。そういう仕事が出来た満足感が「仕事道楽」という言葉につながるのだろう。どっかの国の世襲かつ無選挙首相のような“道楽仕事”じゃ絶対味わえない仕事感覚だな。
実は鈴木さんにも一度だけお会いしたことがある。知人の結婚式の来賓でスピーチをされたのが鈴木さんだったのだ。当時ジブリ映画はすでに成功を収めていたけれど、一般的にプロデューサーが脚光を浴びるという状況でもなかった。ボクも「へーこの人がジブリのプロデューサーかぁ」くらいの感想しか持たない青二才だった。
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