ペレリマンを待ちわびて
読書の秋到来!ということで、ほとんどは星野博美さんの著書に費やす予定です。本日もアマゾンから2冊届きました。今朝7:00頃注文したのが今日届くんだから、やっぱすごいなアマゾン...。最近は新刊書のアップ速度が遅いアマゾンだけど、既刊本中心の首都圏生活者のワタクシには強い味方です。
ただ、なにごともひとつのことに集中できない浮気性の性質なので、できる限り脳内のふり幅が広がる本を求めて日々書店を彷徨ってます。ていうか、身体が求めてしまうんだな。脳の違う部分も使えって。
特に最近はストレスを感じることが多い生活なので。オレの生活を脅かすようなパワーハラスメントには徹底抗戦せなあかんと心を新たにした週末だったのだ。ぷんぷん!いまぷんぷんと打とうとしてぽんぽんになってしまった。ものすごい脱力感...。
●ポアンカレ予想を解いた男
さて、そんな週末に買ってきたのが「100年の難問はなぜ解けたのか」(NHK出版)で、一気に読み終えた!ブルーバックスで育ったオレには、めっちゃ面白かったぞ。
数学界には21世紀になっても解けなかった7大難問(7つのミレニアム問題)というのがあり、そのなかに「ポアンカレ予想」というのも選ばれていた。これを解いたのがグリゴリ・ペレリマン博士。2006年にその功績が認められ、フィールズ賞に輝いた。ここ最近書店に「ポアンカレ予想」の書籍が結構並んでるのはそういう事情だ。
ところが、このペレリマン博士は人間嫌いで、100万ドル(約1億円)の賞金も賞も辞退して引きこもっているというのだ。この本は、そんなペレリマン博士のポアンカレ予想解決への道程に迫ろうとしたNHKスペシャル(2007年秋放送)を書籍にまとめたものだ。
もとがインタビュー映像中心の番組なので大変わかりやすく、読みやすい。以前、「マネー革命」も紹介したけど、同じような読みやすさを感じた。
数学や科学の真実・真理に迫ろうとする営みやそれを成し遂げようとする人物、そして関わった人々の証言。これはオレのもっとも好物のひとつだ。
なぜだかちょっと考えてみたのだが、まずそういう誰もが発見できない高みに到達する過程には、ふり幅の広い思考や論理の飛躍が必ずある。その飛躍に惹かれてる。専門領域だけに閉じないで、幅広い知識とアイデアを寄せ集める過程がスリリングなのだ。それは時代のなかでひとつづつツールを獲得していくゲームのような感覚ともいえる。
もうひとつは、とにかく成し遂げる人物がピュアであり、考え抜き、悩みぬく存在であること。さらにアイデアマンなだけでなく、職人のひらめきを持ってる。俗世間から浮いた存在へのあこがれがある。考えることの楽しさこそが、神の与えた最高の娯楽だと思う。もっとも本当に高みに到達した人々は世間的には不幸だったりするのだが...。
俗人にはさっぱりわからない数学界だが、超高等数学って専門領域が分かれてて、数学の中でも専門が違うとさっぱり解けないようだ。ペレリマン博士のすごいとこは、それらの専門領域を横断的に利用しつつ、数学だけでなく物理の熱方程式なども駆使して解いているところのようだ。
●人気に流されない痛快さ
門外漢のオレにとって痛快だったのは、その解法のツールだ。ツールとなる数学にもそれぞれ歴史があるわけだ。人気のあるテーマもあれば日陰のテーマもある。
ポアンカレ予想ってやつはトポロジー(位相幾何学)っていう現代的で人気のある数学テーマを象徴する難問だった(1960年代)。しかしペレリマンは、その現代的人気テーマの研究者が古臭いと言っていた「微分幾何学」を駆使して解いたのだった。
またペレリマンは、アレクサンドロフ空間という「特異点」の研究をしていた。これは「ゲテモノ数学」とまで揶揄されていた研究テーマだったそうだ。この研究成果がポアンカレ予想解決の決め手となった。
そして熱方程式だ。数学の世界にあったリッチフロー方程式が物理学の熱方程式に似てた。リッチフロー方程式は専門外だったペレリマンだが、子どものころ得意だった物理学の熱方程式をヒントにして、アレクサンドロフ空間の研究に果敢に導入してゆく。
こういったツールのひとつひとつがみんな数学の人気テーマから外れているのだ。誰も解けない詰め将棋にチェスと囲碁の戦法で解法を示したようなものか?この結果を知ったトポロジー研究者の呆然としたが目に浮かぶようだ...。この日陰のテーマを駆使して超人気テーマを解決する過程が、たたき上げ好きのオレにはたまらんわけよ。
しかしそのように横断的な解法が本当に破綻のないものかどうかを誰かが検証しなければならない。専門領域外はてんでわからない数学界にとって、大変重労働だったことだろう。チームを作って2年かかったそうだ。それでようやく正しいことが証明され、数学界ではノーベル賞より価値があるといわれるフィールズ賞に至ったわけだ。でも受け取らない...。なぜだ!?その答えはペレリマンしか知らない。
この手のベストセラーにはサイモン・シンによる「フェルマーの最終定理」(新潮文庫)もある。結構分厚い本だが、内容が面白いのでワクワクしながらミステリーみたいに読める。秋の夜長にどちらももってこい!
● 2010/3/22:追記 クレイ研究所ミレニアム賞 -----
この記事へのアクセスがまた瞬間風速的にアップした。なにか動きがあったなと思ったら、クレイ数学協会がミレニアム賞と賞金100万ドルをペレリマン博士に授けると発表したようだ。フィールズ賞を辞退した博士がこれを受けるかどうかに注目が集まっている。
とまぁ、ここまでは新聞の後追い記事。それだけじゃつまんないからペレリマン関連書籍の紹介もひとつ。『完全なる証明』(マーシャ・ガッセン著、青木薫訳、文藝春秋刊)という書籍が昨年秋に出版され、私が持っているもので既に4刷(2010/2/5)。アマゾンでも現時点で591位と売れている。
サブタイトルは「100万ドルを拒否した天才数学者」で、オビには分子生物学者福岡伸一氏絶賛「数学という営みの孤独と美しさ、今年私が読んだ科学翻訳書のベストワン」とある。この書籍では博士の名前がペレリマンではなくペレルマンと訳されているから、ここからはペレルマンと呼ぼう。
著者はペレルマンと同時期にソビエト社会主義共和国連邦で数学のエリート教育を受けたというユダヤ人ジャーナリストだ。その経歴と英語・ロシア語のバイリンガルであることを武器に関係者を丹念に取材し、当時のソ連の数学教育やエリート教育についても記述している。
訳者によると、この書物は「ペレルマンという数学者そのものに焦点をあてた初めての本」だという。さらに底本があったわけでなく、著者から原稿を受け取ってアメリカ版と日本版が同時進行で編集されたという珍しい書籍だ。だから編集方針の違いで章立てが異なっているらしい。
特に第一章のソ連の数学学校のあたりは、著者自身が日本語版だからこそ「十全なかたちで含まれている」と語っている。また「日本語版には、スターリンのあの粛清の時代を、ほとんど奇跡のように生き延びた数学者たちのことも語られている」とも。まさに日本語版を読めてラッキー って気分なんだよね。
クレイ研究所による今回のミレニアム賞授与への道程も最後のほうに書かれていた。この賞は数学者たちが同業者としてその業績の“完全さ”を称える賞であり、王室が授与する某賞などとは違うという。しかし受けるか受けないかはペレルマン次第です()。
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コメント
緊急告知!今日この書籍の元ネタ番組が再放送されます。22:00からNHKスペシャルアンコールです。
TVタックルは休みなのか時間ずれるのかとテレビ雑誌を見て気づいた!予約間に合ったぁ!野球中継さまさまー
投稿: ポップンポール | 2009/03/09 21:05
うおぉーーーー!!ものすごいアクセス数だ。番組開始から終了後1時間でひとくちメモの人気記事ランキング1位に。検索ワードでも昨日の48.2%が「ペレリマン」だった。21時くらいにコメント書いてたのも検索エンジン的にはよいタイミングだったのかも。
この数学の難問ってジャンルは結構人気のあるジャンルで、最近書籍でもロングセラーが出ている。このタイミングで再放送するNHKもなかなかやるな。いまでもこの書籍は書店で平積みされているし、売れ行き好調なんだろう。納得だよ。だって面白いんだもん!
理数系の書籍は大書店でも奥の棚に追いやられていることが多いが、面白いかどうかだけで考えれば棚を活かす方法はいくらもある。書店の進化はまだまだ中世って感じ。情報化の時代、NHKのこの再放送タイミングを書店も見習おう。
投稿: ポップンポール | 2009/03/10 07:19
ここ3日くらいペレリマン関係のアクセスが急激に伸びてる。
なにか動きがあったのかな?
再放送されたわけでもなさそうだけど?
今週なんてとうとう圧倒的に強いキムヨナ記事を抜いちゃった!
キムヨナvsペレリマン
どういう対決の図式なんだ(笑)
ひとくちメモならではでござんす。
追記:どうやらBS-hiで再放送されたようでした。結構BSの視聴者も増加してきてるんだなぁ。BS番組表もキッチリチェックしないと乗り遅れそう...。
投稿: ポップンポール | 2009/11/25 08:08