愚か者、星野博美が好き
いま、星野博美にはまっている。写真家アシスタントからフリーになり、第32回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しているエッセイストでもある。今年5月発行の『愚か者、中国をゆく』(光文社新書)を読み始め、ますます星野博美に惹かれる今日この頃なのである。
そもそも知ったのはつい最近のことだ。朝日ニュースターに「武田鉄矢の週刊鉄学」という番組があり、そのゲストとして出演されていた。毎週同局の「愛川欽也のパックインジャーナル」を録画して時間を作って観ているのだが、その放送後に「週刊鉄学」の再放送があり、連続して録画していたのだった。
この番組の内容が面白かった 現代中国について熱く語っているのだが、話は鉄道の座席話で盛り上がっていた。
硬い座席、硬い寝台、柔らかい座席、柔らかい寝台、座席なしという区分け。決して一等寝台、二等座席などとは名付けないのが社会主義的な言い回しだ。
そしてこの座席の切符を取得することがどれほどつらい戦いか。切符がなくなったという表示すらしない平等主義。合理性は特権サービスであり平等ではないのだ。延々ならんで「切符は?」「ない」の繰り返し...。
そんな星野博美の中国の旅は1986-7年、香港留学中のことだ。中国の民主化運動が1989年の天安門事件としてニュースになる前夜といえる時期、偶然にもはじまったばかりの学生デモとも遭遇していて、同時代人・同世代人として民主化運動前夜の息吹を体験しているのだ。
本当に貴重な歴史的体験をしているのだが、そこは触りだけで、その後は同じ留学生仲間のマイケルとシルクロードを目指す旅の記録となっている。番組に惹かれて新書を読み始めたが、その文体と情景描写のうまさでグイグイ引き込まれていった。
その中国の旅は過酷すぎる列車の旅なのだが、この過酷さを軽い文体で、愚か者の旅人初心者目線で描いてくれていて、とにかく面白い。ロードムーヴィーを観ているような感覚で読み進められる。映画化できそうだぞ。
星野博美は初めての中国旅行に出発する前、香港でくすぶっていたときに持った中国への憧憬と、旅への高ぶる心境を、「中国が足りない」と表現した。番組を見た直後、ボクは「星野博美が足りない」と思った。
そしてすぐにこの『愚か者、中国をゆく』と、『転がる香港に苔は生えない』『謝々!チャイニーズ』(ともに文春文庫)の3冊を同時に買ったのだった。
どれから読み始めようかと考えたが、せっかくだから新刊から読み始めた。内容的にも『愚か者、中国をゆく』が最初の彼女の旅でもあるようだし。出版順とは逆に、星野博美の辿った足あと順に読み進んで行きたい。今年の読書の秋は星野博美三昧だ
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