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2008.05.26

旅の民俗学

旅の民俗学ゴールデンウィーク前あたりから、にわか宮本常一ファンになり、最初に買った2冊を含め4冊をほぼ同時並行して読んでいたが、この「旅の民俗学」(河出書房新社)を一番早く読み終えた。

宮本常一さんが、さまざまな分野の専門家と対談や鼎談をしている本なので読みやすく、またそれぞれのテーマがコンパクトにまとまっていて興味を引くつくりになっている。さすが河出書房だ。

この書籍は2006年8月30日初版発行なのだが、各章の初出一覧を見ると、1968年から1980年だった。一番新しくて26年前なのだ。集めるべくして集められた珠玉の名編(というとホメ過ぎかもしれないが)となっており、編集のウマさというか視点のセンスが光っていると思った。

ボクは旅も好きだが書籍(造本)も好き。良心的な中小零細出版社というのは多々あれど、あまりに学術的に過ぎたり資料的価値に寄り添ってばかりいたり、というのは好みじゃない(そういう書物も大切だとは思うけど)。

そこそこの部数を狙わなければならない中堅出版社であるがゆえの頭の使い方とか編集力とかに光るものがあったとき、むしょうにうれしくなる。これが講談社や小学館クラスだとまた違うんだよな(^_^;)。

表紙もいいでしょ。この構図。道を歩いている二人は誰なんでしょう。この道はどこの道なんでしょう。いろんな想像をしてしまう。日本国じゅうを歩き回った宮本常一の原点は「道」であることが、この1枚の写真に表現されてる。

学者や文筆家との対話が面白い。専門家から出されるテーマを、宮本常一は地道な調査に基づいた論理で考証していく。現場主義だから説得力がある。またその現場も点ではなく線であり面で捉え、さらに歴史文書(古文書など)と照合して立体的に検証し、誰にでもわかる言葉に噛み砕いて語ってくれる。

というか、おそらく各地を歩き回って調査するうえで、この「わかりやすい語り部」の才能が宮本常一の大仕事の原動力となっていたように思った。仮説も含めあらゆるテーマに現場から応えられるというのは、やはり並大抵のことではない。

そしてその生活者へのまなざしを、常に彼らの側に置く。宮本常一の仕事をあらわすとき、「調査」よりも「旅」が似合う所以だろう。旅人の謙虚さと、民俗学者としての洞察力、そして魅力的な話術。世間師宮本常一の真骨頂はそこにあるな。

内容では、個人的に山崎朋子さん・茂在寅男さんとの鼎談「海と日本人」(1977.6)がうれしかった。山崎朋子さんは大ベストセラーのノンフィクション「サンダカン八番娼館」の著者だ。鎖国以前の日本人が海洋民としていかに活き活き生活していたかがわかる。

国家とは何かを再度考えずにはいられない。国家の縛りがなければ、日本人は海洋民として縦横無尽に外海へ飛び出していたことだろう。海洋技術も発達してきたことだろう。それを統治管理する必要があるとすれば、誰の必要性なのか、また何のために国境を存在させたのかがはっきりわかる。

国家とは権力者による収奪と富の流出阻止のための線引きだろう。民は独自のネットワークを持ち、自然の循環のなかで暮らしていたし、土地土地にオリジナルな知恵をふんだんに育てていた。それを画一化(侵略)していく道程こそが近代化だったのかもしれない。

進化の恩恵は計り知れないし、国家権力の後ろ盾がなければ宮本常一の仕事もなかったかもしれない。それは認めつつ、人にとってまず何が大切で、何を守り、何を育て、何を伝えていくのか。個々人の生活史のなかに知らぬ間に入り込んでいる強者の歴史観、国家による思考停止した地方破壊の現状を、いま一度、自分のこととして捉えなおしてみたい。

文部科学省は国語をやめてお国ことばと郷土史を全面的に採用した方がいいのではないか。国家という画一化した幻想でなく、生活している土地を原点に外界を捉えるほうが生きる力も愛郷心も芽生えると思うが。日の丸・君が代がいかにウソかが見えてくる(>だからやらんのかもしれんが...)。

ま、そんな大仰なことなんて考えないで、スローライフな感覚で読める良書でした。このなかでさらに興味の湧くテーマが見つかったら、次の読書へつながるという意味で入門編としても良かったです。

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