0777読了
59!Go鳩!いや、号泣!いきなりダジャレかよ!というわけで、復刊版の『レース鳩0777』全7巻(オリジナルは全14巻)を読み終えた。
泣けたなぁー。泣けた。ブログに感想でも書こうと思って読み始めたので、結構冷静だったと思うのだが、もう1巻から3巻(オリジナル1〜6巻)だけで3回くらい泣いたぞ。そして最後の7巻(同13〜14巻)は、その壮絶な1100キロレースで次々と死んでいくおなじみの名鳩たち...。あまりのすごさに自分の記憶から消していたのかとすら思ったが、読み直して確かに昔最後まで読んでいたことは思い出した。
泣けたポイントは自分でも意外だったのだが、ほとんど0777(アラシ)ではなかったのだ。最初は、悪ガキの大関正宗クンが「みんなのように優勝できる鳩が欲しいよー!」といってじいちゃんの山本勘助(日本で十指に入る鳩訓練の名人)にねだるとこ。その次はこのじいちゃんが軍での伝書鳩飼育の同僚だった黒田官兵衛(鳩についてはあらゆることを知っている)のもとに赴き、夜目が抜群に利く0108(ビャクヤ)号と出会うとこだった。
正直大関クンのくだりに感情移入するなんてな(笑)。なんでだろうと考えた。たぶんこの時点で、本物のレース鳩を持っていないのが大関クンだけだったからかもしれない。悪ガキで知識もあり鳩はたくさん飼ってるけれど、「勝つ」という目的を持ちたくても持てない“歯がゆさ”とか“悔しさ”が、昔の自分にオーバーラップしたのかもしれない。
その次はなんといっても0666(グレート・ピジョン)号が、自分の息子たち0976(マグナム)と0777(アラシ)の窮地を助けるかのように現れ、そして死んでいくところだ。早くも2巻目(同3巻)で。黒田官兵衛が誇る名鳩グレート・ピジョン号は、誰もが一目置く存在だった。「孤高の勇者の死」というものは気高い。その血を受け継いだアラシを見守っていこうと思ってしまう。
この調子で書いていくときりがないのだが、0001(トップ)とか0296(オフクロ)とか1720(イナズマ)とか、個性豊かな鳩たちと、その飼い主との間に結ばれた強い絆がどのようなプロセスで培われたかはどれも秀逸で、レースのシーンでも思わず鳩と飼い主とが一心同体に見えてくる。
だがこの絆の強さが、台風に襲われた長距離レースでの壮絶きわまる悲劇を余計につらくしていくのだ。正直、少年マンガのラストスパートで、この厳しさはきついと思った。あまりにもつらすぎる。マンガでこんなにつらい思いをしたくないという子どもたちもいたんじゃないだろうか。
オフクロ号の死なんてめちゃめちゃ苦しい。飼い主の佐清(すけきよ)クンは亡き母の面影を追うようにオフクロ号と出会い、継母との確執を乗り越えて、いまや継母を母と認め、その新しい母とオフクロ号を重ね合わせられるくらいに成長したのに...。オフクロ号がヒナのころを回想するシーンとか、きつすぎる。
結局最後のレースで生還できたのはアラシとマグナムの兄弟だけだった。だがマグナムは記録が取れない。両足が無くなってしまっていたからだ。レース鳩の記録を取る足輪がないのだ。しかも黒田官兵衛の手の中で息絶えるのだ。そんな...。
そしてアラシだけが生きて帰ってきた。意外にもアラシはこのときまで無冠だ。そしてこのただ1羽の生還ですら記録には残らなかった。レース期間外の帰還だったから。つまりアラシは無冠のままなのだ。そこも感動したところだな。記録じゃないんだってことだ。それは自分の鳩を亡くしたほかの飼い主にもいえる。その死を自分なりに乗り越えようとがんばる姿にも感動する。
かなり厳しいマンガだったとあらためて思った。運動会のかけっこすらやらせない現代っ子には耐えられないかもしれない。ストーリー展開にはやや強引というかあまりにご都合主義なところもあるけれど、そういうところを指摘してもなにも始まらない。やはり語り継ぐべきは、友情とか愛情とか、勝負の厳しさとか決断力とか、そういったキレイごとですまない物事の本質をついたところだと思う。それらの厳しさや強さを少しずつ受け入れていくステップとすれば、これはやはり堂々たる少年マンガだったと思うのだ。
(写真は全7巻の勇士。写真右側は表4(裏表紙)で、鈴木物産のフライトパワーというレース鳩保健鉱物飼料の広告。鳩が選んでくれましたというキャッチコピーが入っているのだ)
| 固定リンク | 2
コメント
読了お疲れさまです。
ビャクヤの飼い主は山本くんではなく大関くんでしたか。
彼の鳩を放したら1羽も帰ってっこなくて、
山本勘助に「くだらない鳩ばかり飼っていたもんだな」というようなことを言われるシーンを覚えてます。
爺ちゃんすごく厳しいんですよね。しかし、そこがとてもかっこいいとも思えて印象に残っています。
ラストのほうは、ポップンポールさんの感想で
色々思い出されてきました。
鳩たちがほとんど落ちてしまうのはわかっていたけど、マグナムがどうなるか忘れていたので「そうだったかあー!」と、この時点でおののいてしまいました。
しかし、ほんとうにすごい漫画です。
いい意味で容赦がないのですね。
でも、昔の子供達はダークな手塚治虫やエッチで残虐な永井豪ちゃんとか、
もっと過激なものを読んでいることも多かったと思うので、その中にあった「アラシ」はやはり
「感動する作品」としてとらえた子供も多かったのではないかと。私もそうでした。
残酷と思える描写もあったけれど、そこを読みたくない、不要である、とは感じませんでしたし。
しかし今の子達や親の立場にある人は
耐性がないと思うので、つらくて途中で目を背けたくなるかもしれませんね。
もし作品が連載中なら抗議して、展開や結末をねじ曲げてしまうかもしれない。
そんな今の世の中で、子供向けの漫画でここまでの厳しさを表現できるでしょうか。
だからこそ必要な、大事な存在だと思うのです。
飯森先生は動物まんがを多く描いていらっしゃいますが、
「動物ってかわいい」「仲良くしよう」そんなことだけではすませていない、そこも魅力でした。
はあ~、まだ読んでないのになんだか胸がいっぱいです(笑;)
投稿: ゆかわ | 2005/11/09 01:20
ゆかわさん、こんにちは。
山本勘助じいちゃんは孫の大関君に、ピジョンタイマーを冷蔵庫に入れて2分59秒遅らせる方法を教えたり、孫可愛さに負ける自分を黒田官兵衛に笑われるじゃろうなと気にしたりして、とても人間的なんですよねぇ。
くだらない鳩ばかりって、「そりゃ爺さん、アンタが与えたんだろ」ってツッコミたくもなりましたが(笑)、これも鳩を可愛がるやさしい子に育って欲しいという孫への思いでしたよね。その結果が悪ガキの大関君というところも、この山本勘助の人生を感じさせますねぇ(って深読みしすぎかな)。
マグナムの帰還は、今もうそこだけ読み返してもウルウル来ちゃいます。でも黒田官兵衛はその死を悲しみながらも、「グレート・ピジョンの血が絶えた?いや、まだアラシがいた!」と計算しているところなんかは大人だなぁと思いましたね(^_^;)。冷めて読んでる私も大人になったと実感した部分です...。
動物マンガは、ペットブームのいまでは流行らないのかもしれないですね。山本勘助と大関君みたいな可愛がるだけの親子関係そのものだったり、ペットとしての愛玩動物ばかりがもてはやされる世の中ですし。
レース鳩はペットじゃないし、ある意味ドライな関係ですよね。だけど、その厳しさの中にある絆が感動につながるんですよね。いまの時代はそんな絆が希薄だから、短絡的に人を刺したり自殺したりするのかなってちょっと考えたりもしました。
投稿: ポップンポール | 2005/11/10 11:29
そうでしたか、山本勘助は孫に対しては甘かったのですね。
あまり大関くんのことは覚えていなくて、
移動鳩の訓練の名人であるとか、
そういう所の記憶が強かったもので。
>レース鳩はペットじゃないし、ある意味ドライな関係ですよね。だけど、その厳しさの中にある絆が感動につながるんですよね。
同感です。
年内にでも注文できたらいいな、と思っております・・わくわく。
投稿: ゆかわ | 2005/11/11 20:43
私も読み返すまでは大関くんはノーマークでした...。
ズッシリ重い全7巻、ぜひ堪能してください!
私もこの「レース鳩0777」は、藤子不二雄先生の「まんが道」愛蔵版とあわせて、何度も読み返すことになりそうです。
投稿: ポップンポール | 2005/11/14 02:56
こんにちは!
最近、レース鳩0777の復刊版を購入したものです。
あれぇ~レース鳩0777は、2005年にも復刊されていたのですね。てっきり今年の6月だと・・思っていました。(無知・・)
請求書に書いてあったのは、刷った日付だったのだろうか・・・。
投稿: Ururu | 2007/08/09 23:41
Ururu さん、コメントありがとうございます。
合冊本での復刊は2001年が最初だったと思います。その存在は一部では知られていたのですが、復刊ドットコムさんによってメジャーになったということでしょうね。
いずれにしろレース鳩0777が21世紀になっても読めるってのはうれしいですね!
投稿: ポップンポール | 2007/08/12 07:44
こんにちは。その漫画、そんなに面白いのかしらと思って読みたくなって探しに探してやっとやっとオークションで14冊セット手に入れて、1冊につき一時間かけてじっくり読み進め、今5冊目です。1冊読むたびに涙と鼻水のティッシュの山ができます。泣きながら読み進んで顔がむくみました。もう、たったの5冊目で死にそうなくらい心がかき乱されてます。感動しすぎです。14冊終わる頃まで体力もつか心配です。今、レース鳩の迷い鳩が我が家に毎日遊びに来ています。飼い主に連絡したらその鳩はくれてやるって。そんな、鳩舎もないのに無理です。そしたら都合よく隣の隣のおっちゃんが昔レース鳩やってて鳩舎そのままあるから面倒みてくれてます。1羽だけおっちゃんの鳩がいたので結婚させて2羽雛も生まれました。雛と3羽であそびにきます。しかしもうレースやめた人に飼われてるので。でも時々他県から飛ばしてもちゃんと帰ってきているとのこと。話がそれましたが、この大昔の漫画、最高に素晴らしい作品ですね!
投稿: ちゅん平 | 2010/09/22 13:12
ちゅん平さん、はじめまして。コメントありがとうございます()
オリジナルを入手されたんですね。5巻目あたりはグレートピジョン号が最期を向かえ、その息子達が過酷なレースの世界に向かい始めたあたりですよね。まさに感動のアラシですねぇ!
全14巻は体力勝負なので休憩を取りながら楽しんでくださいっ!泣いてください!
> 飼い主に連絡したらその鳩はくれてやるって。
レースから脱落した鳩はいらないってことなんですかねぇ...。でもそのレース鳩はちゅん平さんに拾われて良かったですね。第二の人生があってよかったです。
投稿: ポップンポール | 2010/09/22 21:20
こんにちは!上のコメントに新たな展開がありました。迷い鳩の件でです。昨日、元の飼い主さんから連絡があって、要するに引き取って繁殖させたいと。何でもその鳩の兄弟が800キロレースで優勝しているので、この優秀な血を絶やしたくないのだそうです。何か名のある人が作出した、なんとかいう系統の素晴らしい鳩だとか。元の家に帰れて、しかも大事にされるのだから、良かったのですが、もう会えないとなるとさみしいです。そしたらなんと、来春に生まれる雛を1羽、くれるっていうんです。しかも組み立て式の小さな鳩小屋も一緒に送ってくれるって。これってまるでレース鳩0777を地で行く展開じゃないですか。嬉しいような可笑しいような。もう、決心して来年鳩を受け取ろうかなと思ってます。
投稿: ちゅん平 | 2010/09/25 16:36
ちゅん平さん、なんだか急展開ですね!
いやーそんなこともあるんですねぇ。私は現在の鳩レース事情にまったく無知なので無責任なことは言えませんが、もし飼える環境が整って意欲があるなら、こういうご縁は乗っかる価値があると思うなぁ
もし育てることになったら、やっぱ名前はアラシしかないですよね 結構レースに「アラシ」って鳩がたくさんいたりして(笑)。飼うことに決められたときは頑張ってください!
投稿: ポップンポール | 2010/09/25 21:37
はい、ありがとうございます。もちろん、その時は名前をアラシにしようと思ってます。鳥は現在8種類24羽飼っていますが、鳩はレース鳩0777で知った知識以外何も分からないのでもう少し勉強してから迎えたいと思います。ところで、レース鳩0777はまた1巻から読みなおしてます。5巻から前に進まずにです。余りに泣き通しで5巻まで来たので内容が記憶から飛んでしまってるので。もっと冷静に読み直しです。なのにやはりティッシュの山が・・・
投稿: ちゅん平 | 2010/09/26 22:52
いまも鳥の飼育をされているんですね。うらやましい。私も子どものころは実家にたくさん小鳥がいましたが、いまはドバトと戦い続ける生活です()。中西悟堂のような生活がしてみたいのですが...。
「レース鳩0777」は何度も読み直す価値ありますよねぇ。ゆっくりじっくり読むには秋の夜長はもってこいですね
投稿: ポップンポール | 2010/09/27 07:44
中西悟堂さんは神様的存在ですね。あの人がいなかったら日本の野鳥はどうなっていたのかと。サギを部屋飼いしたのは凄すぎですね。ウグイス捕りの名人の話を聞く事より、名人の持っている封筒の中のウグイスが気になって、ウグイスを哀れに思う中西さんが大好きです。
投稿: ちゅん平 | 2010/09/27 13:35
初めまして。現在43歳です。
小学校から中学までレース鳩を飼育していました(無論0777の影響で)。
電子書籍で購入し(本当は本が欲しいのですが、ヤフオク等だとかなり高価なので・・)約30年ぶりに読み、泣きました。
今、読み返して見ても名作であることを確信しました。現在小1の息子にも読ませたいと思います。
投稿: 息子はユウキ | 2011/01/05 14:49
息子はユウキさん、はじめまして。
こういうコメントいただくと、レース鳩0777の影響の大きさをいまになって感じますねぇ。うれしいなぁ。
ボクもこうしてコメントもらうたびに感動が蘇るのでありがたいです。飯森先生も天国で読んでくださってるかなぁ。
小1の息子さんがユウキ君なんでしょうか。息子さんにもぜひ0777の“勇気”と絆の尊さを感じて欲しいですね。
投稿: ポップンポール | 2011/01/05 21:25
無謀なレースに次々と参加者が名乗りを上げるくだりで、黒田老が述懐するシーンが今も心に残っています。「それは人間の業かも知れん…。鳩を愛する優しい心と裏腹に、どす黒いばかりの名誉欲、顕示欲を持つのが人間の心なのじゃ」。当時の子どもには重すぎる内容かも知れないけど、人間の持つ冷厳な真実がうたわれていました。こういう漫画は今もあるかなあ。
投稿: ルーラン | 2021/05/24 16:26
ルーランさん、コメントありがとうございます!
もう15年以上前の記事にこうしてコメントいただけるなんて嬉しいです。
動物と人間との関わりでは、なんでもかんでも「かわいい」というだけの愛玩動物がもてはやされる昨今ですが、そんな生易しいものじゃない世界を見せてくれる漫画ですよね。
だけど飯森紘一先生だからこその(人間も含めた)動物たちへの愛情があふれだしていて、その信頼感が感動につながるんじゃないかと思っています。
あー、久しぶりにまた読みたくなってきたなー!
投稿: ポップンポール | 2021/05/24 23:18
どういたしまして。主さんから直々に返信を頂けるとは光栄です。次郎のライバル達のセコさ、冷たさもリアルで、「人間ってこんなもんなんだよなあ」と納得させてくれる描写でした。それでも人間に対しても動物に対してもニヒルにならない、絶望しないという作者のスタンスに胸を打たれます。50を過ぎた私もまた読み返しています。
投稿: ルーラン | 2021/05/31 14:25
ルーランさん、私も同世代ですよー。
時代も自分も変わっていく中で、節目節目に読み返したくなる漫画があるってのは幸せですね。飯森先生に感謝です!そしてまたそんな気持ちにしていただいたルーランさんにも感謝です!
投稿: ポップンポール | 2021/06/04 22:44