小田和正DVD-BOXは突然に
小田和正音楽史完全版DVD-BOX「風のようにうたが流れていた」を、全部見終わった。先週末には見終わっていたのだが、何から伝えればいいのか、わからないまま時は流れて、浮かんでは消えて行く、ありふれた言葉だけぇ...という感じで(笑)、番組があんまり素敵だから、ただ素直に好きと言えないでいたわけだ。だがやっと構想がまとまったので、書いてみたいと思う。構想といっても、この書き出しを思いついただけなんだ(笑)。
もともとは昨年のTBS深夜番組だったが、今回のDVD−BOX化では未公開トークも含め全560分となっている。また84ページにわたるブックレットが付いており、これがまたシャレてるのだ。それは後で書こう。
深夜番組のときには、ほとんど見れてなかった。朧月夜を歌っているところを偶然に見て「ええっ!」と驚いた。あの小田和正が自身の音楽体験を振り返りつつ、その時々に好きだった歌を歌ってしまう、それもテレビで!昔では考えられない贅沢な番組だ。それがまたパッケージ商品になるなんて、時代は変わったなぁ。
ボク自身は10〜20歳年上の人ともっとも音楽の話が合うくらいのフォークソング狂いのバカ息子だった。難しいコード(F#m7とか分散コードとか。当時中学生だからねぇ)の鍵盤の押さえ方を覚えたのはオフコースの曲だった。オフコースとの出会いはたしか深夜ラジオで「秋の気配」を聴いたことだったと思う。なんと洗練された楽曲なんだと思った。
その後、全曲集(昭和60年6月10日発行)を買って練習したり、VHD(LDに対抗してビクターが出してた幻のメディア^_^;)で武道館ライブを買ったりしていた(いまDVDはプレミア物になってる...)。
小田さんはかたくなに裏声を使わないと聴いたことがある。どんなに高い音も裏声を使わない。その職人的こだわりも好きだ。自慢じゃないが、ボクの歌声は小田ヴォイスに似ている。ただしハイトーンが出るのは寝起きの30分だけだ(笑)。
トークでは結構“上から目線”だ(笑)。それは昔からそうだった。かつて、松山千春やさだまさしとしゃべっている場面を見たことがあるが、楽曲の印象しかなかったから「千春ぅ、おまえがなぁ」みたいにしゃべっていて、声に似合わず男っぽいんだなとか思っていた。今回の番組でも、もちろん上から目線だ。それも職人気質の表れじゃないかと思う。
DVDは4枚組だが、なんといっても2枚目が圧巻だった。山本潤子(赤い鳥、ハイファイセット)やムッシュかまやつ(かまやつひろし)との共演は涙モノ。アマチュアからプロになる決心をしたライト・ミュージック・コンテストの音源まで収録してくれている。そのコンテストで一位だった赤い鳥のメインヴォーカル・山本潤子と、敗れて2位になり、逆にプロの道へ進んだ小田和正との思い出話はめちゃめちゃ興味深かった。
ボクは個人的に日本の歌謡史を読むのが好きで、特にその渦中にいた人の話を聞くのが大好きなのだ。高校時代、日本史は赤点だったけれど(泣)、歌謡史だったらそんじょそこらの日本史教師よりも詳しかったし、そのほうが意味があるという自負すら持っていた(いまも持ってる)。
だからムッシュかまやつ氏も、自伝「ムッシュ!」は読んでいて、同時に出たCD「Je m'appelle MONSEIUR −我が名はムッシュ−」も買っていた。そういうこともあり、こうして小田さんも「ムッシュ!」を読んでいたことがうれしかったし、またあのすごい曲「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」を二人で歌っちゃう姿jに興奮した。
小田さんの音楽遍歴を見ていると、やはり若い頃には多様なジャンルを聴いてきているなと思う。同じく2枚目では、泉谷しげるの「春夏秋冬」を小田さんが歌っている。泉谷しげるとオフコース。普通、接点が見つからないじゃん(笑)。でも泉谷しげるを認めるミュージシャンは多い。
粗暴な振る舞いしか知らない世代には、泉谷の初期の楽曲は新鮮かもしれない。「ライヴ!!泉谷 −王様たちの夜−」は入手困難だけど、見つけたら聴いて欲しい。このライブは吉田拓郎が「泉谷、すげぇ...」とぶっ飛んで、かなりインスパイヤされたという。泉谷しげるには、テレビで見せる粗暴な言動とは別に、非常にナイーブな名曲がたくさんある。春夏秋冬もそのひとつで、小田さんがそれを採りあげたことに、なるほど!と納得した。なんか将棋のうまい一手を見たような感じだ。
いい曲を書けるかどうかは才能だが、その才能は聴いてきた音楽の多様さもかなり影響するように思う。それは知的好奇心であり、多様性を許容できる柔軟性も必要だということじゃないか。だからコンサートの前座の人に帰れコールをしたり、「さよなら」は暗くてちょっととか、食わず嫌いをしていてはダメってことだと思う。
DVD-BOXの豪華ブックレットには用語集がついている。この用語集がなかなかシャレてるのだ。番組内でトークに出てきた重要語句を解説してくれている。これによって、いっそう当時の音楽状況に思いをはせることができるのだが、まったく音楽と関係ない知識も得られる。
例えば、ハワイアンの話の流れで出てきた「アラモアナショッピングセンター」なんて“用語”の解説もあったりする。こういう遊び心が随所にある。仙台に行った話のところでは「宮城県の県庁所在地。(中略)ずんだ餅などが有名」みたいな、あえて普通の解説が載っていたりする。このスタンス、大好きだ!
この用語集にもうひとつ付け加えたい。
【すいません】
小田和正の口ぐせ。レコード会社へのイヤミをチクっと言ってみたり、ギャグのつもりがウケなかったりしたときに頻繁に出てくる。初回の「すぅいませーん」は、不慣れなトークショーで緊張して恥ずかしがっている小田さんの照れ隠しだが、そのうち会場も「すいません」に慣れてくる。
どうだろう(笑)。歌っているときの自信がフリートークでは揺らぐのだが、回をおうごとにトークに慣れていく小田さん。さすがだ。
このDVD−BOXは、大袈裟に言えば「ゴダールの映画史」をも連想させる。小田和正というミュージシャンの半生を通して、音楽を通して、世代をつないでいく。ただ押し付ける教育ではなく、教える側がまず自分自身で楽しみながら伝え、受け手の感受性を喚起していく。
あの日 あの時 あの場所で うたに会えなかったら
そういう思いで見ていた。先日他界したフォークソングの雄・高田渡と小田和正は確か同い年だ。小田さんの歌声はまったく衰えていない。高田渡も昔とちっとも変わらなかった(年輪を経て深みは出ていたけれど)。この世代の強さを実感するが、身体には気をつけて、ますます軒昂で活躍して欲しいと思う。
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コメント
> 吉田拓郎が「泉谷、すげぇ...」とぶっ飛んで、かなりインスパイヤされたという。
その後、拓郎は「王様達のハイキング」というライブ盤を出していますね。
投稿: なる | 2005/06/15 23:17
なるさん、コメントありがとうございます。
出してますねぇ!王様って付くアルバムを探すと、いまや拓郎のこっちのアルバムがヒットするんですよね。
ボクも拓郎ファンです。復活ライブの1曲目で♪私は今日まで生きてきましたぁって「今日までそして明日から」を拓郎が歌い始めたとき、会場で鳥肌が立って、涙が出ましたよ。
この夏にはかぐや姫とのつま恋ライブ1975が未公開映像もつないでDVD化されますし、拓郎サマーがやってくる予感ビシバシです!
投稿: ポップンポール | 2005/06/16 11:48
ご無沙汰しております。
操作に誤り、大量のトラックバックを送ってしまいました。
SPAMのつもりはありませんので、重複分はお手数ですが削除をお願い致します。m(__)m
投稿: FFへんしゅ~ちょ | 2005/06/19 13:18
FFへんしゅ~ちょさん、こんばんは。重複分は削除したのでご安心を。それよりも、ボクが乱心しそうなバトンを送っていただきまして謝謝(笑)。
困るんだよな。めちゃめちゃ悩む!きっとバトンを送られた音楽ファンは相当困ってるだろうな。5曲なんて!みたいな。思わずオレの分身5人にバトンを渡そうかと考えてしまいましたよ。友達いないんで(笑)。
延々と自分にバトンを送り続ける「ひとり上手」。なんて、惜しくも選に漏れた中島みゆきの名曲もここにもぐりこませたりして。ま、気楽に考えてしっかり取り組みますわ!
投稿: ポップンポール | 2005/06/19 21:57