相場小説
今朝のTBS「儲かりマンデー」はIPOの話題だった。昨日たまたまY嬢、M氏からIPOの話を聞いたばかりだったので、興味深く見た。IPOとは新規公開株のことだ。抽選で当たって買えれば、90%以上の確率で初値が値上がりするおいしい株だそうだ。
個人的には当てもの的な売買に興味が湧かないのだが、ちょうどいい機会なので面白い相場小説でも紹介してみようと思った。ここから先はIPOとはまったく関係ない話で恐縮です(^_^;)。
●京都議定書と「赤いダイヤ」
ホントは京都議定書発効の時に書く予定でした。それは、排出権ビジネスという新しいビジネスが、環境問題を考えるための京都議定書によって産み出され、ボクの頭の中でこの小説とリンクしたからです。相場小説の金字塔「赤いダイヤ」の上下巻です。
いろんな業界や政治・経済の世界では「規制緩和」が広く叫ばれてますけれど、京都議定書はいわば数少ない「規制強化」であり、規制あるところには必ずビジネスチャンスがあるものです。なぜなら資本主義は差別化によって利益を生むシステムだからです。環境規制目標を守れる国と守れない国という差別化が起きたとき、その違い、狭間、エッジ、ニッチな部分には、ビジネスの匂いを嗅ぎつけた商魂たくましい人々が押し寄せます。
京都議定書の場合は、それが排出権ビジネスでした。排気ガスなどの環境汚染削減は各国に目標値があり、それを達成しなければならないけれど、それによって産業の停滞を招きたくないというジレンマがあります。そこでこの目標を軽々と達成できてしまう他国から、目標以上のあまった分を権利として買い取れるのが排出権ビジネスです。「君んとこで空気を汚さない分、ウチで汚させてっ!その権利クレッ!」というワケです。これでプラマイゼロになり、地球の空気の汚れる総量では目標達成という、なんだかキツネにつままれたような話なわけです(笑)。
この排出権ビジネスのようなビジネスを実践し、大儲けしたのが「赤いダイヤ」の主人公、木塚慶太(こづかけいた)です。小説は事業に失敗し自殺しようとしている木塚の姿からはじまります。でもかなり悲惨な状況にも関わらず、なぜかユーモラスなのです。これから死のうという男の言動がいちいち生気に満ちているといいましょうか。このあたりは作者・梶山季之(かじやまとしゆき)のうまさかもしれません。
赤いダイヤとは小豆(あずき)のことです。この小説は小豆相場の仕手戦を舞台に展開され、そこでの主役・森玄こと森玄一郎と、ドラマ化するならぜひ三浦理恵子に演じて欲しい(笑)井戸美子など、人間臭い人々が次々と登場します。小豆相場を知らなくても、その人間臭さだけで充分に面白いのですが、木塚慶太の商魂には思わず笑っちゃいます。商才を取ったら何も残らないヤツだけど、こと商売に関しては「この男だきゃ...」と、ついつい小説だということを忘れてあっけにとられてしまいました(笑)。
その木塚慶太が目をつけたのが特割外貨ビジネスというもので、まさに規制が生んだビジネスなんです。「赤いダイヤ」は小豆相場の小説ではありますが、この木塚慶太の新ビジネスがめっちゃ利いてる!この小説が相場小説の金字塔と呼ばれるのは、こういう分厚いサブストーリーがあってこそだと思います。それらがすべて絡み合っていく様は、まさに大衆小説の金字塔でもあるわけです。
読み進むうちに木塚が自殺しようとしていたことなんて完全に忘れそうになるんですが、ところどころでそれを思い出させるのも作者のうまさ。なんだか気分が高揚してきて、読者が元気になれる小説です。ただ大衆小説という分野や時代背景もあるのでしょうが、女性読者が女性の描き方に不快感を抱く可能性はありますね。井戸美子の人生って、時代や男に翻弄されて、でもその発端は欲に目がくらんだ計算高い彼女自身の言動の結果であって、救いようがありません...。そこを他人事として読めたら大丈夫です(笑)。
版元のパン・ローリングは、相場を張る人間にはおなじみの出版社ですが、なかなか一般の方はご存知ないかもしれません。パン・ローリングから復刻小説が出るとは思わなかった!さすが目の付けどころが違うよね。ありがとうと言いたい。このシリーズは続けて欲しいなぁ。
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コメント
日頃株とか相場とか興味ない、というかお金儲けがトンと苦手な私ですが、私事ながら、今回のお客様が先物取引の会社の社員旅行だったので、この記事を読みながら「あの人が○○さんで、ならあの人が△△さんかな~?」などと興味深く推理してしまいました。
かつて「破滅への疾走」という企業小説を読んだ時も、登場人物本人が推察でき、まさに自分が昔清書させられた一部分が載ってて、リアルに読んだ覚えがあり、それと重なるような気持ちで、面白く読ませて頂きました。
投稿: まりあ | 2005/03/25 17:30
高杉良ですねー。高杉良さんってめっちゃいい仕事してますよね。ルポやノンフィクションとは違った面白さがあると思います!
内幕モノって特に興奮しますよね。「破滅への疾走」からの連想で、文学賞の内幕もの「大いなる助走」を思い出しました。筒井康隆さんのへんな小説(?)です。
ボクはある時期企業小説・経済小説にドップリ漬かってました。城山三郎、高杉良、清水一行、安土敏、幸田真音、etc...。最近は小説をあまり読まなくなったのですが、それでもこの分野は興味があります。
まりあさんと企業小説という括りからの連想では、城山三郎の「臨3311に乗れ」を思い出しました。旅行つながりで(^0^)。この小説もめっちゃ面白かったです。たまたま友人がこの会社にいたので知ってるか聞いたら、入社したときに読まされたそうです(笑)。
投稿: ポップンポール | 2005/03/26 09:04
本をあまり読まない私が、本について語れるとは思いませんでした(笑)。ポップンさんの守備の広さに脱帽です。
高杉良は、そんな不読書女の私でも、興味を持って読んだ本が何冊かあります。実名が連想されるリアル感、そして明朗な文章が好きでした。
「臨3311に乗れ」も読みました。やはりK社の必読書だそうで(笑)。私はK社の社員ではありませんが、知人にそのように言われて読ん…いや読まされた記憶があります。
会社の規模が大きくなると、こういう情熱を持った人は少なくなり、私利私欲に走る人が増えてくるのは仕方ないのでしょうか?だから顧客情報が簡単に流出してしまうのかな。
投稿: まりあ | 2005/03/26 10:29
おっ、プチ・チャット状態!「臨3311に乗れ」読んでましたかー(笑)。創業物語って情熱ありますよねー。
会社の規模もそうですけど、やはり創業時と何年も経ってからとでは、まったく別会社になっちゃうとこが多いかも。私利私欲というか社内政治というか...。大きくなり方もいろいろで、曲がったまんま大きくなっちゃうと、もうもとには戻れないですからねぇ。外部から壊して作り直すしかなくなったりして...。
いまの時期、これから就職する人もいると思うけれど、入社前に得ていた情報なんて、ほんと奇麗事っていうか、まったく無意味だと思ったほうがいいですね。素直な新入社員ってのは可愛がられるけれど、やはり批判精神を常に片方で持つことを忘れたら染まっちゃいますね。
これから就職する人には、サラリーマンであっても個人事業主的な感覚を学んでいって欲しいと思います。会社と自分、社会と自分、その両方のスタンスがないと、会社の論理に流されますからねぇ...。そうなっちゃうと会社が変われないように、人間も変われません。最初が大切じゃないかと思います。会社の人間とだけ飲んでちゃダメっすよね(笑)。
投稿: ポップンポール | 2005/03/26 10:48
プチチャットにお応えして…(笑)
ポップンさん、なんだかスカウトマンみたいだ。
そう、入社案内(私も昔作ってました)には「自由な発想」とか「風通しのよい雰囲気」とか、美辞麗句が多いけど、実際に入ってみると、いい歳したオヤジやお局がまだまだ幅きかせている。フジ・サンケイグループが良い例ですね(笑)。
>会社の人間とだけ飲んでちゃダメっすよね(笑)。
って、飲みに誘ってる?(笑)
投稿: まりあ | 2005/03/26 11:44
> って、飲みに誘ってる?(笑)
いや、そんなハワイに行く時間もないのに飲みなんて...(普通は逆か?)。
投稿: ポップンポール | 2005/03/28 13:00